不器用な彼氏
『そんなに早く来たの?』
『朝の渋滞も計算して、早く出てきただけだ』
『とか言って、本当は、今日が待ち遠しかったんでしょう?』
『そうやって、遅刻を誤魔化そうとするな。ほら荷物』

私の目論見は早々にバレているらしい。
お礼を言いつつ、旅行用の少し大きめの鞄を手渡す。

『重っ、何入ってるんだ?1泊だろ』
『女性はいろいろあるのよ』

実は、今夜の花火大会で着るために、自前の浴衣を持ってきていることは、まだ内緒。
こんなことで、海成が喜んでくれたりはしないだろうけど、いくつになっても、少しでも綺麗に見られたいという女心。

浴衣の着方だって、バッチリ覚えてきた。

車が止まっている駐車場まで、海成の後ろを歩きながら天を仰ぐ。
天気は快晴。まだ、朝の早い時間だけど、ジリジリと夏の日差しが眩しかった。
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