不器用な彼氏
『どうした?』
『今日の花火大会って、ここの旅館の特別エリアがあるんだって』
『ああ、今フロントでもらったこれか?』

見ると、部屋のカードキーと共に、旅館の名前の入った花火大会の“特別入場券”と書かれたチケットが2枚。

『会場までも、ここから5分くらいで着くらしいよ』
『じゃ、それまで少しゆっくりできるな』
『夕食の時間は?』
『少し早めに5時半からにしたが、良かったか?』
『うん。お昼も早かったしね』

海成は、早速『風呂入る時間、ありそうだな』と、独りごちる。
私はともかく、海成は一日、車の運転で疲れたのかもしれない。

とりあえず、先ずは部屋で一息つくことにする。

泊まるお部屋は、502号室。海成の話だと、別名『星降りの間』と呼ばれているらしいのだけど、一体どんな部屋なのだろう?

ロビーの奥にあるエレベータで5階まで行き、左右に分かれた通路を左に曲がる。
充分手入れのされた柔らかな絨毯の上を、数メートルほど歩くと、すぐ右手にその部屋があった。

入り口は、鍵の付いていない格子戸になっていて、そこを開けると、足元に行燈が一つ置かれただけの小さな空間が設けてあり、その奥に、カードキーで開く扉が現れる。

プライベート感たっぷりの、贅沢な造りだった。

海成がキーを使って部屋の扉を開けると、想像していたよりもずっと広い空間が目の前に現れた。

入ってすぐ、玄関らしきスペースがあり、そこで靴が脱げるようになっていて、一段上がった先は、濃茶色の板張りの廊下。

その先左手に小さな和室とくつろぎのリビングフロア、奥右手に見える障子襖の向こう側は、おそらく寝室になっているのだろうと思われた。

部屋の作りも、和洋掛け合わされたモダンな作りになっていて、落ち着いた大人の雰囲気。

もちろん、突き当りの窓は一面オーシャンビューになっている。
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