不器用な彼氏
第15話 浴衣と花火と黒髪と。
宿泊地である旅館に着いたのは、夕方午後4時半過ぎ。
少し高台にあるそこは、旅館といっても全体的に、和洋入り交ざったようなモダンな雰囲気が漂う宿。

入ってすぐ目についたのは、ロビーから廊下まで、すべてに引き詰めてある、趣のある重厚な絨毯。手入れがきちんとされていて、チリ一つ見当たらない。

ちょうど、時間的にチェックインのお客が重なり、フロントは少し混雑している様子。

海成が手続きを済ます間、何気なくロビーの掲示板にあった、花火大会のポスターに目を向けていると、旅館の仲居さんらしき年配の女性が、『本日お泊りですか?』と、にこやかに話しかけてきた。

『はい』
『さようでございますか。では今夜の花火大会も?』
『ええ、そのつもりです』
『当旅館は、本日の花火大会に協賛しているものですから、宿泊者様は、特別エリアでご覧いただけるんですよ』
『そうなんですか?』
『はい。ですから、毎年この時間から会場になる海岸は混雑が凄いのですが、お客様は、焦らずゆっくり、温泉とお食事を楽しまれてから、向かってくださいね』
『会場までは…』
『それも、ご心配いりません。そちらの扉から、直接海岸に抜ける通路がございますので、5分もかからず会場に行けるでしょう』

仲居さんの示すのは、ロビー横のラウンジにある、庭園に出るためのガラス扉のことらしかった。

親切な案内にお礼を言うと、『では、ごゆっくりお寛ぎください』と、深々と頭を下げて、次のお客様の対応に向かう。

ちょうど、チェックインを済ませた海成が戻ってきた。
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