不器用な彼氏
『海成、本当に変わったわね…』

駐車場へ戻る海成の後姿を見送りながら、理香子さんがつぶやく。

『あ、ごめんなさいね。人の彼を呼び捨てにしたりして、気分悪いわよね』
『いえ…大丈夫です』
『…もしかして、聞いた…かな?』

探るように私の表情を読み取ろうとする彼女に、小さく『はい、少し』と答えると、案外ホッとした顔で、『そっかぁそうだよね』と、あっけらかんと笑う。

その姿が、海成のお姉さんに少し似ていて、“類は友を呼ぶ”という言葉が浮かんだ。

『昨日も、あんなところで声かけたりして、折角の旅行なのに…不安にさせちゃったかな?』

申し訳なさそうに謝る理香子さんに、『少しだけ』と、正直に言って、すぐに『なんて冗談ですよ』と笑いかける。
理香子さんは、一瞬驚きつつも、ホッとした表情で、もう一度謝ってくれる。

私も、ほんの少し、仕返しをしたかったので、これでおあいこだ。

だって、昨夜の海成の誠実な想いと、理香子さんのさっきの幸せそうなご家族を見たら、今はもう、何の不安も心配も無くなってしまった。

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