不器用な彼氏
午後4時過ぎ。

『進藤さん、ちょっと聞いていいですが?』

仕事で判断に迷い、東君が席を離れていたので、旧庁舎の時同様、真後ろの席に座っている“彼”に助けを求めるが、ちょうどフロアの奥にある社員用の出入り口から、ゆったりと歩いてくる東君を確認すると、黙ってそっちを一瞥し、さっさと自分の席に向き直ってしまう。

おそらく“東に聞け”ということなのだろう。

『…はい』

相変わらずの塩対応に、近くで見ていた受付の諏訪ちゃんが、こっそり『ドンマイ、櫻木さん』とフォロー。
大丈夫。もうだいぶ慣れましたから。

それに、実は今週末は、お楽しみイベントが待っているのよ、諏訪ちゃん、と心の中で報告。女性から好きな男性への、甘いスウィートを手渡す、イベント。

十数時間後に訪れる、超久しぶりのデートに、思わずにやけてしまう。


2月14日、土曜日。

これまで、仕事帰りに何度か食事には行ったけれど、こんな風にお休みの日に、プライベートで会うのは、今日で3回目。毎日職場で会ってるんだから…と、よくわからない理由で、なかなか二人の時間を作ってはくれない。

1回目は、残念ながらクリスマスイブの日に、徹夜だった彼の明けを狙って、休暇を取り、サプライズ強行したクリスマスデート。

しかし前日の仕事の疲れと、職場を勝手に休んだことに対しての無計画さに不機嫌になり、最悪なデートだった。

2回目は、年末年始にどうしても会いたくなり、強引に初詣に引っ張り出し、寒川神社に行くも、人ごみの中で職場の人に会ったらまずいと、ビクビクしながらのお参り。結局、早々に帰宅する始末。

当然ながら、通常、恋人同士が進むべき甘い進展は無いに等しく、キスはおろか、手をつなぐことさえも、果たして数回あったかどうか…。
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