不器用な彼氏
待ち合わせは、大和駅から15分ほど離れた住宅街にある小さな公園。

人目を気にして、駅から少し離れた場所にするのが、私たちの鉄則。とはいえ、彼の身長とあの独特な風貌で、かなり離れた場所でも目立ってしまうので、すぐわかる。

『待った?』

待ち合わせ時間を、5分ほど遅れて、小走りで到着すると

『遅ぇ。20分待った』

当然の如く“今来たところだよハニー”なんて、言ってはくれない。

『ごめん…っていうか、それってそっちが勝手に早く着いただけでしょう?』
『時間前に着くのは、常識だろ』
『言うことがいちいち昭和なのよ』
『お前だって同じ歳だろ』

職場を出れば、先輩も後輩も無い。
それよりも、彼の今日の私服が気になった。

これまで、何度か私服を見ているが、毎度のことながら黒ずくめの男。長袖のTシャツの上に黒っぽいネルシャツ。下はブラックのジーンズにスニーカー。極めつけは、黒のダウンコート。コナン君に見つかったら大変だ。

『何だよ』
『別に。私があと5分遅かったら、通報されてたかな?って思って』
『どういう意味だよ』

イケナイ、イケナイ。
せっかくの貴重なデートが台無しになる前に、話題を変えなければ!

『あ、そうそう!映画の時間、調べてきた?』
『誤魔化したな』

彼の大きな手が、私の頭を鷲掴みにする。

『ちょっと、触らないでよ。距離間!距離感でしょ!』
『クソッこんな時だけルール厳守かよ』

仕方なくあきらめて、手を放してくれる。

“触らないで”…なんて、嘘よ。ほんのちょっとでも触れてほしくて、どれだけ時間をかけて、髪をブローしたことか。少し乱れた髪を手櫛で整える。

『時間無ぇから行くぞ』

彼が前を歩く…と、なぜか駅と逆方向に向かってる。

『進藤さん、駅こっちでしょ?』

呼び止めると、ジーンズから、何やらクリスタルの可愛らしいキーホルダーが付いたカギを取り出し、

『姉貴に車借りた。こっちの方が動きやすいだろ』
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