不器用な彼氏
第2話 怖くて優しい人


8月に入り、毎日うだるような暑さが続いていた。
今年は猛暑が続き、夏嫌いの私には毎日が地獄のよう。

幸い、老朽化しているとはいえ、職場の空調は前の職場よりも良く効いていて、執務室内は快適な温度だったのが唯一の救いだった。

その日の午後、日中一番暑い時間帯に、お客様入り口の二重扉を重そうに開けて、一人の女性が入ってきた。

年齢は20代前半だろうか?透き通るような色白の肌に、栗色の髪は肩より少し長く、美人というよりは可愛らしいイメージ。この暑い中、重そうなバックを両手に掲げて歩いてこられたようで、額にはたくさんの汗をかき、色白な顔も真っ赤に蒸気してしまっている。

思わず『大丈夫ですか?』と声をかけると、弱弱しく微笑み、囁くように

『すみません。TM係はこちらでよろしいでしょうか?』

聞けば、彼女は契約している建築業者の事務員で、東京から来たとの事。物件の場所を聞くと、ちょうど自分の担当地区だったので、“こちらにどうぞ”と、目の前のカウンターの席を勧める。

重そうな大きなバックの中から大事そうに書類を出すと、彼女は少し辛そうに額の汗を、薄緑色のハンドタオルで拭う。業者と言っても、おそらく”おつかい”で来ただけなのだろう。初めてのことで少し緊張している様子。

ほぐすために、なるべくフランクに、声をかけてみる。
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