悪役ヒロインは恋してる

5月

「柚姫、この場合、関係詞はーーーー」

「そうか、じゃあここで繋がってーーーー」

顔を上げた瞬間、思ったより近くにあった伶音くんと目が合った。

今にも鼻がくっつきそうな距離。

たっぷり3秒間見つめ合う。

「ご……めんなさ……」

硬直した体をゆっくりと動かし、なんとか伶音くんから距離を取る。

顔が熱い。

きっと、赤くなっているのがバレている。

息が荒い。

心臓が痛いほど、その存在を主張している。

好きだ。

こんなちょっとしたことで、嫌というほど自分の気持ちを自覚する。

伶音くんのことが、好きだーーーー



「伶音くん、試験勉強捗ってる?」

部活にも、学校生活にも慣れたある日の帰り道。

部活終わりの伶音くんと並んで歩きながら、私は軽い気持ちで投げかけた。

当然、返答があることを疑いもせずに。

質問から三歩歩いたところで、隣に彼がいないことに気がついて、私は慌てて振り返った。

「れ、伶音くん?」

伶音くんはこの世の終わりを見たかのような顔で固まっていた。

形の良い口をハクハクとわななかせている。

「どうしたの……?」

伶音くんの元に戻ると、彼は蒼白な顔をしていた。

「試験あるの……忘れてた」

「えっ!?」

今にも膝から崩れ落ちそうな伶音くんを、さり気なく手を取って支える。

「試験……いつ……?」

最早片言になった伶音くんに問われて、私は迷いながら、彼を地獄に突き落とすであろう言葉を口にした。

「あした……」
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