その恋、逃亡中。
別れ話

1.




「とにかく。今晩行くからな」

と、電話の向こうで信二が言った。

「今晩?じゃあ。考え直したの?」

くるみの胸は淡く染まった。信二からの電話は二週間ぶりである。しかも、彼は夜、訪ねて来ると言っている。《彼は別れ話を撤回するつもりだろう……》

「いや、そうじゃないさ。君が言った手切れ金を持って行くんだよ」

「え?手切れ金?」

「そうだよ、何驚いているんだ。くるみの方から言い出したんじゃないか……」

信二の声は、妙に乾いていてくるみの鼓膜を打った。

「でも、それだけだったら……」

しかし、くるみは途中で言葉を切った。信二の電話が切れてしまったのだ。


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