副社長は甘くて強引

 ハートジュエリー東京本店の最寄り駅である銀座駅で電車を降りる。混雑する駅の人波をかき分けて改札を抜けると、会社に向かって足を進めた。

「大橋!」

 背後から聞こえてきた声に振り返る。

「佐川、おはよう」

 私に声をかけてきたのは佐川。今日はふたりとも早番だ。

「髪切ったんだ。なんか雰囲気変わったから、すぐに大橋だって気づかなかったよ」

「そうかな」

 肩先で切った髪の毛は、がんばって内巻きにした。服装だっていつものようなラフな格好じゃなくて、黒のジャケットとフレアスカートをチョイスした。

「それにそのフォーエバーハートの指輪。買ったの?」

 とくに手を掲げたわけでもないのに、このルビーの指輪に気づくとは、さすが佐川。ジュエリー会社のスタッフだけあって、身に着けているものにめざとい。

「この指輪は昨日、副社長がプレゼントしてくれたの」

「は? なんで?」

 佐川の切れ長の瞳が大きくなる。

「自分に自信がつくお守りだって。あのね、佐川。私、副社長にペリドットの指輪を強引に奪われたときはすごく頭にきたけど、今はそれでよかったと思ってる」

「どうして?」

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