副社長は甘くて強引

 激務が続き、ようやく迎えたクリスマスイブ当日。今日と明日を乗りきれば、繁忙期から解放される。その思いを胸にショップに立つ。

 彼女が気に入ったジュエリーをプレゼントしたい。そのように考える恋人でショップはそれなりに混雑をしている。目の前でイチャイチャしながらショーケースを覗くカップルを見るのは、正直おもしろくない。しかし私は接客のプロ。感情は顔に出さず、営業スマイルを浮かべて対応した。



「大橋!」

 忙しい合間を縫ってトイレに行こうとしたとき、背後から佐川に呼び止められる。

「なに?」

 暖房の効いているショップとは違い、バッグヤードは寒い。早く要件を聞き出そうと佐川を急かす。

「大橋は今日、どういうふうに過ごす予定?」

 どういうふうもなにも、彼氏がいない私のクリスマスのスケジュールは真っ白だ。

「家に帰って寝るだけだよ」

「俺も同じ。それじゃあさ……」

 佐川がなにかを言いかけたとき「ブブブ」というバイブ音が聞こえた。佐川がスーツの内ポケットからスマートフォンを取り出す。どうやら着信があったらしい。

「ウゲッ。関根さんからだ」

 スマートフォンの画面を見た佐川が悲痛な声をあげる。関根さんとは佐川のお得意様のひとり。気前よく商品を購入してくれるのはありがたいが、おしゃべり好きでいつまでも帰ってくれないことが悩みの種だ。

「もしもし。佐川です」

 佐川はワントーン高い声で呼び出しに応じる。

 ご苦労様。

 心の中で佐川を労いつつ、ふと思う。

 私になんの用があったんだろう……。

 関根さんと通話をしている佐川を気にしつつ、急いでトイレに向かった。

< 73 / 116 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop