副社長は甘くて強引
激務が続き、ようやく迎えたクリスマスイブ当日。今日と明日を乗りきれば、繁忙期から解放される。その思いを胸にショップに立つ。
彼女が気に入ったジュエリーをプレゼントしたい。そのように考える恋人でショップはそれなりに混雑をしている。目の前でイチャイチャしながらショーケースを覗くカップルを見るのは、正直おもしろくない。しかし私は接客のプロ。感情は顔に出さず、営業スマイルを浮かべて対応した。
「大橋!」
忙しい合間を縫ってトイレに行こうとしたとき、背後から佐川に呼び止められる。
「なに?」
暖房の効いているショップとは違い、バッグヤードは寒い。早く要件を聞き出そうと佐川を急かす。
「大橋は今日、どういうふうに過ごす予定?」
どういうふうもなにも、彼氏がいない私のクリスマスのスケジュールは真っ白だ。
「家に帰って寝るだけだよ」
「俺も同じ。それじゃあさ……」
佐川がなにかを言いかけたとき「ブブブ」というバイブ音が聞こえた。佐川がスーツの内ポケットからスマートフォンを取り出す。どうやら着信があったらしい。
「ウゲッ。関根さんからだ」
スマートフォンの画面を見た佐川が悲痛な声をあげる。関根さんとは佐川のお得意様のひとり。気前よく商品を購入してくれるのはありがたいが、おしゃべり好きでいつまでも帰ってくれないことが悩みの種だ。
「もしもし。佐川です」
佐川はワントーン高い声で呼び出しに応じる。
ご苦労様。
心の中で佐川を労いつつ、ふと思う。
私になんの用があったんだろう……。
関根さんと通話をしている佐川を気にしつつ、急いでトイレに向かった。