副社長は甘くて強引

 副社長とキスをしたのは二度。一度目はコーヒーショップを出た脇道の暗がりで。二度目は東京プリマホテルのスイートルームで。

 佐川が見たのは、一度目のキスだ。

「佐川、私の跡をつけたの?」

「だって電話がかかってきた後、急にソワソワし始めるし、おかしかったから……」

 小さい声で佐川がつぶやく。

 佐川は私をこっそりと尾行し、キスしている姿を覗き見した。ストーカーのような佐川の行動は正直、迷惑だ。それでも佐川を責める気にはなれない。佐川をそのような行為に走らせてしまったのは、私なのだから……。

「……副社長とは別になんでもないの」

「キスしておいて、なんでもないわけないよね。まあ相手が相手だけに、付き合ったばかりで噂になっても困るか。で? 俺にネックレスを返すように副社長に言われた?」

 佐川は私と副社長の仲を信じて疑わない。

「副社長は私と佐川がつき合っていると思ってる」

「は? なんで?」

「あのネックレスを身に着けていたから……」

 東京プリマホテルのスイートルームで起きた出来事を思い出すだけで、胸がチクリと痛みだす。

「そんなの誤解だって言えばいいのに」

「言おうとしたけれど、副社長は私の話を聞いてくれなかった。それに副社長は私のことなんか好きじゃないし……」

 そう。副社長が私に求めたのは、面倒のない体だけの関係。でもこのことを佐川には言うつもりはない。適当に言葉を濁す。

< 95 / 116 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop