副社長は甘くて強引
一月中旬のある日。遅番の業務を終え、バッグヤードに下がった佐川の後を急いで追う。
「佐川っ!」
佐川の腕に手を伸ばす。猛ダッシュした甲斐があり、なんとか佐川を捕まえることができた。
「大橋……しつこいな」
ため息交じりに佐川がつぶやく。
「だって、佐川が私を避けるからでしょ」
「……わかった。話を聞く。人目につかない場所に移動しよう」
「うん」
バックヤードを通り、階段を下りる佐川の後を追う。
「営業部の人たちももう退社しているだろうし、ここなら大丈夫かな」
「そうだね」
ここはハートジュエリー東京本店の地下駐車場。今の時刻は午後八時三十五分。佐川の言う通り、車を使う営業部の人たちはすでに退社している時間だ。
「それで? 話ってなに?」
佐川は駐車場入口付近の壁に寄りかかると腕組みをする。不機嫌オーラを隠そうとしない佐川は近寄りがたくて怖い。
でも、ここで怯んではだめだ。そう思い、自分を奮い立たせる。
「これ、やっぱり受け取れない」
社内専用バッグからルビーのネックレスが入ったジュエリーケースを取り出すと、佐川に差し出す。
「……だよな。副社長とあんな関係なんだから、受け取れないのは当然だよね」
佐川がジュエリーケースを受け取る。
「あんな関係って?」
「……キスする関係」
佐川の予想外の言葉を聞き、心臓が止まりそうになる。