副社長は甘くて強引

 遠くから聞こえてくる音で目が覚める

 うるさいな。なんの音?

 ぼうっとすること数秒。ドアホンが立て続けに鳴っていることに、ようやく気づく。ピンポンと鳴り響く音は、まるで嫌がらせのように止まらない。

 いったい誰?

 眉をひそめながらベッドから起き上がると、モニターを覗いた。

「嘘っ!」

 声をあげてしまったのは、副社長がモニター越しに映っていたから。彼の表情は不機嫌そのもので、恐怖すら感じる。

 どうしよう。居留守を使う?

 おどおどしていると、今度はテーブルの上に置いていたスマートフォンが音を立てる。モニターを気にしながらスマートフォンを手に取ると、画面には〝樋口副社長〟の文字が表示されていた。

 ドアホンの呼び出し音とスマートフォンの着信音がダブルで鳴り響く。

 ヒ、ヒェ~!

 容赦ないダブル攻撃を受けた私の手は震え、額に嫌な汗が滲み出る。

 どうして副社長がウチに? 仕事中じゃないの? あ、もしかして、ちっとも売り上げが伸びない私に痺れを切らしてクビ宣告しに来たのかもしれない。

 頭から血の気が引く。

 ふたつの音はまだ鳴りやまない。こうなったら、出るしかない。

 覚悟を決めて大きく深呼吸をすると、ドアホンの通話ボタンを押した。

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