副社長は甘くて強引
「はい」
「早く、開けてくれ」
「は、はい!」
低い声で手短に用件だけを口にする副社長は迫力満点。急いでオートロックを解除する。
「あっ! どうしよう……」
今になって慌てふためいたのには訳がある。
上下スウェットにスッピン、しかも髪の毛はボサボサ。鏡に映った自分の姿に呆然とする。
「あっ、そうだ!」
ふと我に返った私が次に気がついたのは、散らかり放題の部屋の様子。シンクには使ったままの食器が山積みになっているし、服は脱ぎっぱなし。洗濯物もたまっているし、ゴミも……。
女子力ゼロの現状にガックリと肩を落とす。
こうなったら先手必勝。副社長がエレベーターに乗り、七階にあるウチにたどり着く前に外に出よう。そして玄関先で用事を済ませたら、副社長にはとっとと帰宅してもらおう。
よし。そうと決まったら早速実行だ。
玄関に向かってパタパタと小走りする。サボサンダルを履くと玄関ドアを開けて外に飛び出す。すると通路奥のエレベーターから副社長がタイミングよく出てきた。
間に合ってよかった。これで散らかり放題の部屋を見られずに済む。
ホッと胸をなで下ろす。