結婚前夜
四年前、急な仕事でとある地方を訪れた宗介。
早朝の撮影になるため、駅前のホテルに前泊をしようと乗り込んでいたのだが、現地でビジネスホテルを回ること早三軒。すべてのホテルで宿泊を断られていた。
「明日から、近くの大学で入学試験がある影響で、早い時期から予約のお客様でいっぱいなんです」
三軒目のスタッフが本当に申し訳なさそうに頭を下げる。
「そうでしたか。なら、しょうがないですね」
断りを入れ、宗介はホテルを後にする。
「困ったなあ」
季節は冬。さすがに安全とはいえ野宿するには時期が悪すぎる。
すっかり暗くなった夜空を見上げ、深くため息をつく。
手の中のタブレットで検索した駅近のホテルは計四軒。
うち、三軒は満室で断れたため残るは一軒だが、そこは普段は泊まることのないシティホテル。
彼女と旅行とかなら奮発して宿泊することもあるだろうが、今回は仕事。しかも早朝出発のため、素泊まりで数時間寝られればいいのである。
しかし、ギリギリまで寝ていたいため、あまり駅からは離れたくない。
撮影には体力も使うので、ネットカフェで夜を明かして仕事の質が落ちるのも困る。
宗介は散々悩んだ挙句、高級感漂うエントランスへと足を踏み入れた。
運よく部屋は空いており、チェックインをすます。
最上階にバーがあることを知った宗介は、軽く一杯飲もうと思い、荷物を部屋に置いてからエレベーターへと乗り込んだ。
「いらっしゃいませ」
店員に案内され、カウンターに腰掛ける。
ふと横を見ると、ストレートの綺麗な黒髪の女性が伏し目がちに座り、持っているグラスを回していた。