結婚前夜

四年前、急な仕事でとある地方を訪れた宗介。

早朝の撮影になるため、駅前のホテルに前泊をしようと乗り込んでいたのだが、現地でビジネスホテルを回ること早三軒。すべてのホテルで宿泊を断られていた。

「明日から、近くの大学で入学試験がある影響で、早い時期から予約のお客様でいっぱいなんです」

三軒目のスタッフが本当に申し訳なさそうに頭を下げる。

「そうでしたか。なら、しょうがないですね」

断りを入れ、宗介はホテルを後にする。

「困ったなあ」

季節は冬。さすがに安全とはいえ野宿するには時期が悪すぎる。

すっかり暗くなった夜空を見上げ、深くため息をつく。

手の中のタブレットで検索した駅近のホテルは計四軒。

うち、三軒は満室で断れたため残るは一軒だが、そこは普段は泊まることのないシティホテル。

彼女と旅行とかなら奮発して宿泊することもあるだろうが、今回は仕事。しかも早朝出発のため、素泊まりで数時間寝られればいいのである。

しかし、ギリギリまで寝ていたいため、あまり駅からは離れたくない。

撮影には体力も使うので、ネットカフェで夜を明かして仕事の質が落ちるのも困る。

宗介は散々悩んだ挙句、高級感漂うエントランスへと足を踏み入れた。

運よく部屋は空いており、チェックインをすます。

最上階にバーがあることを知った宗介は、軽く一杯飲もうと思い、荷物を部屋に置いてからエレベーターへと乗り込んだ。

「いらっしゃいませ」

店員に案内され、カウンターに腰掛ける。

ふと横を見ると、ストレートの綺麗な黒髪の女性が伏し目がちに座り、持っているグラスを回していた。
< 2 / 6 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop