結婚前夜
横から見るまつ毛も長く、唇も程よくふっくらしており、宗介の胸がドキリ、と高鳴る。

その女性から目を離すことが出来なくなり見つめていると、視線を感じたのか女性が顔を上げ、宗介の方へと目線を向ける。

吸い込まれそうな漆黒の瞳にまっすぐ見つめられ、魔法にかかったかのように宗介の動きが止まった。

体が動かないだけではない。視線も女性から離せない。

それは女性が美しく、宗介の好みだったからだけではない。

「何か、あったんですか?」

ふたりの間にあった一席分の隙間を埋め、思わず宗介は口を開いた。

「どうして?」

「どうしてって……。だって君、泣いてる」

宗介の言葉に彼女の手が目元に移る。瞬間、目を丸くする彼女。

宗介に言われるまで、泣いていることにさえも気づいていなかったようだ。

「ごめんなさい。泣いているなんて気づかなくて」

宗介から顔を背け、バッグからハンカチを取り出し目元をぬぐう姿を見ていると、彼女のことが気になって仕方がなくなってくる。

「もし君にとって迷惑じゃなかったから、聞かせてくれない?」

「え?」

「涙のワケ。言ったらすっきりすることもあるじゃん」

彼女が気を遣わないよう、少しふざけた口調で笑いながら言うと、こわばっていた彼女の顔が少しだけ柔らかくなった。

「それに俺、こっちの人間じゃないから。どこかで偶然出会って気まずくなるってこともないと思うし」

「じゃあ、お言葉に甘えてつぶやいちゃおうかな」

そう言って、手元のグラスに口をつける。

「さっき、フラれちゃったの」

「どうして? そんなに綺麗なのに?」

「……初対面の人によく、『綺麗』とか簡単に言えるわね。まあ、いいわ。実は私、仕事で目標にしていた資格試験に合格したの」

「すごいじゃん」

「ありがとう。それでね、うれしくて彼にも報告したの。でも彼、何て言ったと思う?」

「おめでとう、とかよかったな、とか?」

フッ、と小さくため息をこぼし、寂しそうに彼女は微笑んだ。

「残念。正解は、『俺は後ろをついて歩いてくれるおしとやかな子が好きなんだ』です。その上、『受かったら東京行くって言ってたもんな。俺、遠距離無理だから』ってあっさり」

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