緋女 ~前編~
そう言われてみれば、母にどんなに無視されようと大好きでいた私だ。
……………否定できない。
とは、さすがに答えられなかった。
沈黙を貫いていると彼が無表情にバッサリ切る。
「分かりました。覚えておきましょう」
この時ばかりは彼の冷めたお喋りな瞳を恨んだ。
「貴女の言い分もとりあえず信じましょう。ですが、貴女にも覚えておいていただきたい」
「なに?」
「貴女は間違いなくシュティ・レヴィア本人です」
「………私にもそれを信じろと?」
交換条件を突きつけられても困る。
見た目がどう変わったって、私はどう頑張っても日本人。
「………難しいことは言っていません。貴女は新しい名前をもらったと思えばいい」
確かにそうだ。
私には今帰るところもない。
だがこの男は私にシュティ・レヴィアという名を与えてくれるという。そうすれば、ここで生きていけると。
迷い始めた私に彼は息を吐いた。
「貴女の話を聞かせてください。そうすれば、わたくしはこっちの今をお聞かせしましょう」