理想の恋じゃないけれど~ホテル・ストーリー~
円卓の席は、男女交互に席についていた。
1つの席に10人くらい座っている。
だから、結花の隣も男性が座ることになっている。

「どうぞよろしくお願いします」その男性は、大きな体を折り曲げるようにして頭を下げた。
「えっと、あの、そんなにしなくていいです。止めてください。ただ隣に座るくらで」
「はい。お言葉に甘えて」
真面目そうな人だった。

彼は、座っては見たものの、ビジネスバッグのようなカバンを膝に置いて、戸惑ったように会場を見渡している。
「あの、その荷物クロークに置いてきたらいかがですか?」
見かねて結花が声をかける。
「多分、席を離れて歩き回ることが多いから、下にはおかない方がいいと思いますけど」
「そうですね。ご丁寧にありがとうございます」軽く頭を下げると、彼は結花に言われた通り、ホールを出てクロークの方へ歩いて行った。

結花は、会が始まる前に口紅を直そうと思って立ち上がった。
お手洗いの手前で声をかけられた。

「あの、すみません」
「はい」
振り返ると、ラグジュアリースーツの男が立っている。
目が合うと、微笑みながら近づいてきた。
「何か?」
「ええ、あの。よかったらパーティーの後、二人で落ち合いませんか?」
「あの……」
「ああ、ごめんなさい。一緒に出て行く振りだけでもいいんです。そうでもしないと断り切れなくて」
「えっと……」
「ダメだったら、遠慮なく断ってください」
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