理想の恋じゃないけれど~ホテル・ストーリー~
男は、結花に名刺を渡して、すぐに会場へ戻っていった。

席に戻ると、ツイードの男はすでに席についていた。
結花が戻ると、嬉しそうに話しかけて来る。

「あの、初めまして」彼は自分の経歴を話し始めた。
企業で働くエンジニアで仕事に没頭しているうちに、縁遠くなってしまったとか。
女性と話すのは得意じゃないから、こういう席じゃないと思い切って話ができなんですと打ち明けた。

「ユカさんは、どうして参加したんですか?こういうところに来る必要ないでしょう」
「どういう意味です?」
「いや、恥ずかしいんですけど、あなたみたいな女性周りにいなくて」
「私みたいな?」結花は、隣の男の顔をよく見た。
見た目も悪くないし、雰囲気もあるのに、どこか野暮ったさを感じる。

「はい。きれいで優しそうな女性です」吹き出しそうになる。
「きれいって、この会場にる女性んの中で、私が特別きれいだっていう訳じゃないでしょう?」
聞いてるうちに、結花は背中がかゆくなってくる。

「そんなことありません。会場に入って、あなたの姿が一番に目に入ってきました」
「入口に一番近かったからでしょう?」
彼は、鈍感なのか、人がいいのかどっちか分からない笑顔を結花に向けた。
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