都会の片隅で
ジュリエット
あたしの名前はジュリエット。

くるんと巻いた鉤尻尾とj真っ黒の艶々の毛並みが自慢で、右足だけ白い靴下を履いてるの。


そう、あたしは猫。
繁華街の中にある小さなビジネスホテルで暮らしてる。


まだあたしが小さい時に、ママと逸れてお腹を空かせて鳴いてたら、このホテルのオーナー?とかいうおじさんに拾われたのよ。

以来あたしは、このホテルのお客様のお迎え役を務めてる。

ホテルのロビーをあたしがのんびり横切ると驚く人も居るけれど、大抵の人はにっこり笑ってくれる。

猫が苦手そうな人は鼻で分かるから絶対近寄らないし、客室のある二階以上には絶対行かないし、お客様を引っ掻いたりなんてお行儀の悪いこと、もちろんした事ないわ。

これでもレディのつもりですもの。

フロントデスクの横にはあたしのお昼寝専用の椅子だってあるし、最近じゃ、あたしに会いに来てくれる常連さんだって居るの。すごいでしょ。



でもあたしと一番の仲良しは、何と言ってもフロント係のアカネね。

オーナーが拾ってきたあたしの面倒を見てくれたのは彼女だもの。

笑うとエクボが出来て、誰にだって優しくて、彼女は本当に可愛い子よ。
あたしほどじゃないけどね。

仕事をしている彼女の横で一緒に過ごす内に、合い間に沢山お喋りして、彼女のことを色々教えてもらったわ。


ここだけの話、彼女には好きな人が居るんですって。


子供の頃から仲の良かった幼馴染で、でも中々好きって言えなくて、言えない間に彼は都会に就職して、田舎を出て行ってしまったんですって。

だからアカネも彼を追って都会に出てきて、このビジネスホテルに就職したんだけれど、久し振りに会いに行ってみたら、彼にはもう既に恋人が居たらしいの。



「マサヤに会ったら今度こそちゃんと告白して、一緒にあの大きなホテルに泊まるの、密かな夢だったのになあ」



そう言って遠い目をするアカネを、あたしは自慢の毛並みで擦り寄って慰めるしかできなかったわ。

"あの大きなホテル"って言うのは、アカネが時々あたしを抱っこしては見上げてる、夜空に聳えるような高い建物の事らしいの。

悔しいけれど、うちのビジネスホテルなんて足元にも及ばない、白くて綺麗できらきらした窓が沢山見える建物よ。

中もあんな風にきらきらしてるのかしらね。


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