キンダーガーテン    ~温かい居場所に~
帰った時よりも、胸のモヤモヤがスッキリして

鼻歌気分で二階に上がろうとしていたら、

ガチャって玄関を開ける音と

「……ただいま……。」と元気の無い声がした。

"今夜は彼氏のおうちにお泊まりする"って言ってた尋ちゃんの帰宅にびっくり‼

「おねえちゃ~ん…。」

泣きながら抱きついてくる、尋ちゃんに戸惑いながら

リビングのソファーに座らせる。

「ちょっと待っててね。」と断ってキッチンに立つと

落ち着けるように飲み物を…

いつもはブラック派の尋ちゃんだけど、ミルクとお砂糖を少し入れてみると

「甘っ!!」

文句を言いながらも、少し笑顔を見せてくれる。

妹の千尋は、二歳年下の高校三年生。

念願の女子大にも合格が決まり、今は残り少ない高校生活を満喫しているの。

頭良し、顔良し、スタイル良しと三拍子揃ってて

どれを取っても、お姉ちゃん以上の…頼れる妹様。

自慢なの。

ちょっと勝ち気で…ズバズバ言っちゃうこともあるけど…。

ホントは優しくて…人のことがほっておけないお人好しさん。

私の心配をしてくれて、相談にものってくれるの。

だけど、私に頼ることはまず無くて…

最後に頼ったのって…小学三年生の時に絵の具を忘れて借りに来た時かなぁ?

そんな尋ちゃんの涙だから、ホントにびっくり‼

「大学生の彼氏がいるって…言ってたでしょ?…あれって…ウソなの…。
ホントは…もう少し上の…社会人。お姉ちゃんより八歳年上なの…。」

「あっ!だから、バレンタインのプレゼント…ネクタイだったんだ。
今時の大学生は、学校にスーツを着ていくのかと…びっくりしたよぅ。」

「さすが社会人‼学生との違いが、よく分かってらっしゃる!!」

少し元気になったからか、嫌みの一つも言ってくる。

どうせ、幼稚園にスーツを着る人はいないですよぅ~。

先生だって研修の時は着るけどね。

カッコイイんだよ!

「それでね…。彼……学校の…先生なの…。数学担当で…二年生の時は…担任だった。
一年の夏に好きになって…片思いして…。
二年の夏から付き合い始めたの。」

「あっ…そう…なんっだ。
あれっ…でも…尋ちゃんって…時々、お泊まりするよね?」

「うん。もちろん、先生の家にね。
悪い人でしょ?自分の教え子に手を出すなんて。
でもね。
こうなるまで…彼も…私も…けっこう悩んだの。…年齢とか、立場とかね。
ホントは…卒業するまで待つのが…正しい考えなんだけど…
それを、越えてしまうくらい…好きになっちゃったの。
自分よりも、相手の方が大切だって思うくらい…大好きなの。
先生は…卒業したら直ぐにでも…一緒になりたいけど…
大学を卒業するまで待つから…結婚しようって言ってくれてる。」

びっくりするニュースだけど…反対する気持ちなんて沸かない。

むしろ!この年齢で本物の恋を見つけた尋ちゃんの事を羨ましく思っちゃう。

「だったら、どうして泣いてたの?」

幸せいっぱいの二人は、ラブラブなバレンタインを過ごすはずだよね?

それを…

お泊まりを中止して…しかも、泣いて帰ってくるなんて…。

「うん…。
先生が…"これから卒業までは、二人で会わない"って言われたの。
"卒業式は…一教師として、尋のことを送り出したいから"って。」

「そっかぁ~。良い先生だね。
最後の一ヶ月は、彼氏としてよりも先生として見守っていこうとしてるんだ!
ホントに尋ちゃんのことを大切に思ってくれてるね。
あれっ?…だったらどうして泣いてるの?…淋しくなった?」

一ヶ月デートが出来ないから淋しくて泣いてるのかな?

強がっていても、まだ高校生だよね。可愛いっ‼

「違う‼そんなことで泣かないよ!
こんなに長く苦しい恋を頑張ったんだもん。それくらい…今さらだよ!
先生……………"一度別れよう"って…。
"卒業して大学に行ったら、一度自分の存在を忘れなさい"って。
"大学に行ったら、尋と同じ年頃の男の子が沢山いるから…先生という彼氏がいない
ゼロの状態で…沢山の人達に出逢っておいで。
もしもそこで、新しい彼氏が出来てもオレは大丈夫だから。
それでも…オレが良いって思ったら戻っておいで。"って。」

思い出したのか…尋ちゃんの目からは、再び涙が溢れてきた。

「えっ?…どうして?」

唯には難し過ぎて…さっぱり分からない。

嫌いじゃないんだよね?

結婚しようって言ってるんだよね?

なのに、どうして?

「そんなの私が聞きたいよ!
卒業したら、女子高生じゃないからダメなんでしょ‼
春になったら、また新しい子に…声をかけるんだよ……!。」

そんなことしないって、分かってて言ってる。

だから、何も言えないよ…。

慰めることも、励ますことも…唯には出来ない。

ただ…側にいるだけ。

泣きつかれて眠ってしまった尋ちゃんに、毛布をかけて

今日あった出来事を思い返してみた。

…………先生に、バレンタインのチョコを贈った私。

自分の気持ちが分からないから…先生や友達に…教えてもらってる…。

好きなのに分からないなんて…

本物の恋じゃあ無いのかな?

尋ちゃんは、高校生なのに…本物の恋を見つけてる。

決して…楽しいことばかりでは、無いみたいだけどねっ!

……私のしらない、沢山の経験をしているんだろうな?

でも…

一人の人を、こんなに真剣に"大切"だと言えるのって…

やっぱり…羨ましい。

唯はみんなに…

"まだまだお子様だ"って…からかわれるけど…仕方ないのかな?

少し前なら"どうして?"って…言ってたけど…

今は"そうだな"って思うから。

だって…。

辛く悲しい思いをしても"大好きだ"って言えるような恋を…

まだしらないもん。

彩ちゃんのように"相手の幸せだけを願う"恋も…。

尋ちゃんのように"ダメだと思っても突っ走る"恋も…。

それ以前に…

恋について考えたこともなかった。

………………だったら………。

今、先生のことを色々考えるのは?

真剣な恋!…ではないかも知れないけど…

今までとはちょっと、違うような気がする。

先生にも

"恋は見つけるものじゃなく…育てるものだよ。"って言われたんだよね。

だったら…唯の恋も…育っていくのかな?

う~ん…。

でも…片思いだと…何に育つのかな?


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