キンダーガーテン    ~温かい居場所に~
次の日の電話で…

昨日の尋ちゃんのことを先生に話した。

「ほぇ~。学校の先生との恋って…ホントにあるんだねぇ。
禁断の恋……かぁ~。
でも…それだけ障害があって、乗り越えてきたんだから
オレは上手くいくと思うんだけどなぁ~。」

「でも…やっと卒業して、堂々と二人で居られるのに…"別れる"って…。
お互い大切に思ってるのに…。」

「そっかぁ~。先生には、分からないかぁ。
まぁ~そうかもねぇ~。
オレは男だから…何となく伝わるのかな?
もしかしたら…妹さんって…その先生との恋が、初恋だったんじゃないのかな?
…まぁ~小学校の低学年や幼稚園の頃に好きだった男の子は
いたかも知れないけど…。
淡い初恋とは違って…初めての恋?
切なくなったり相手のことが気になってドキドキしたり
好きだと…自分で中々認められなかったり…
会いたいのに…目の前にすると、気持ちがバレそうで逃げてしまったり。
とにかく一日がその人で始まって、その人で終わる…みたいな。」

「えっ⁉初めての恋って…そんな症状なんですか‼」

「えっと…まぁ~そんな人が…多いかなぁ~。人にもよるだろうけどね。
症状って…ちょっと病気みたいだけど…"恋煩い"って言葉もあるくらいだから…
あながち間違ってないのかな?
オレも…遥か昔に…そんな思いをしたよ。中学だけどねっ。
まさか先生も…経験ある?」

「あっ…はい。…って…今…??…………そんな日があります。」

クスッって笑って

「先生の症状については…またゆっくり聞いてあげるねっ。
それで…妹さんの世界が、学校と彼氏だけになってたと思うんだ。
特に…先生のお家は…二人共淋しい思いをしてるからね。
だけど…これからは、高校を出て彼のいない所に行く。
彼にしてみたら、教師としての気持ちと男としての気持ちと二つあって
…複雑なんだと思う。
男としての気持ちは…オレも一緒だけど…
ホントにオレで良いのか?他の人を知らなくても?って…不安になるんだ。
周りを見て、比較してオレが良いっていうのとは違って…オレだけっていうのが
プレッシャーだったりね。
まぁ~大切にしないとって思うからだけどねっ。
教師としての気持ちは…
想像でしかないけど…一度自由にしてあげたいって思ったんじゃないのかな?
その証拠に、大学を卒業したら結婚しようって言ってるんでしょ?
彼氏のいない一人の女の子として、新しい世界に送り出してあげたかったんだと思うよ。
どっちにしろ…男は臆病だからね。
ホントは…別れたくないと思うよ。
妹さんに…もう一度話し合って彼の不安を聞いてあげたらいいよって言っといて。
幾つ上でも…大人ではないからね。」

先生の言う意味は、正直…全然分からなかった。

別れたくないのに、別れるなんて…。

それに、初めての恋の彼女だと…大変みたいなことを言っていたから…

私みたいな子って…マズイのかなぁ?

「先生?」

「あっ…すみません。
男の人の気持ちは…難しくて、よく分かりませんでした…。
でも妹は、話し合う余地があるんですよね?
悲しい顔を見たくないから…言ってみます。ありがとうございます。
後…もう一つ…質問しても…良いですか?」

「うん。何でも聞いて‼」

「あの…佐藤先生の件…ありがとうございました…。」

「えっ??…聞いた⁉」

「はい。…食事をした帰りに…彩先生と海晴先生に…。
お礼を言ったらダメだって言われて…聞いたことも忘れなさいって…。
男のプライドだって言ってました。
…なので、お礼が言えず…すみませんでした。言った方が良いのか…
言わない方がいいのか…。
考えたら…時間ばかりが過ぎてしまって…遅くなって…ホントに…ごめんなさい。」

「あ~いや~。…ごめんね。気を使わせちゃったねっ。
男のプライドなんて…大それたものではないんだけど…
先生は…佐藤先生や、揉めた後のオレのことなんかも考えて
自分が我慢する方を選んだんでしょ?
その気持ちが分かったから…先生の気持ちを大切にしたまま…
守れないかなぁ~って思って…四人に頼んだんだ。
まさか、先生が知ってるなんて思わなかったから…ビックリしたけどね。
………それで…質問って?」

「あっ…あの…。
この間の佐藤先生のこともそうなんですけど…遠足の時も
誕生日のペンダントの時も…
いつも私のことを助けて下さって…。
あの…私って…鈍いから。先生の優しさに気づかないこともあるのに…
それでもいつも助けて頂いて…。
あの…凄く嬉しいんです。ホントに感謝してて…
でも、それと同時に…"どうしてなんだろう?"って思っちゃって。」

「う~ん…。
先生って…普段ポワンとしてて…何にも考えてないように見えるのに…
妙に鋭い時があるよね?
う~ん。…気になるなら教えるけど…正直に言っても…受け止められる?」

「えっ…?…怖い話しですか?」

「怖いといえば…怖いかな?
先生はどんなことが怖い?」

「えっと…怖い話しって言ったら…
五人の中で一番ダメな子だって言われるとか…。
自覚はあるんですけど…面と向かって言われると…やっぱりきついかも。
あっ…!でも、そう思ったら…遠慮しないで言って下さい。頑張って受け止めますから。」

「まだそんなこと、考えてるの?ホントに不思議な子だよねぇ。
五人の中で一番ダメなんて、思ってないよ。
先生は一番先生に向いてるって思ってる。
それに!
四人よりちょっとだけ贔屓してるよ。
"どうして助けてくれるのか?"って聞かれて…あえて答えるなら…
『先生だから!』…かなぁ~。」

「唯…だから?」

「そっ‼唯ちゃんだから。」

……………………………………………。

あれっ??…今…先生…"唯ちゃん"って…。

言ったよね?

いつも梓ちゃんにダメって言ってるのに…良いのかなぁ?

う~ん?

まぁプライベートだからいいのかなぁ~?

わぁ⁉プライベートでおしゃべりしてるんだぁ~‼

改めてそう思うと…何だかドキドキ、するなぁ~。

名前で呼ばれたのも初めてだし‼

「まだ…納得いってない?」

「えっ⁉えっ…と…。あの…何がですか??」

「あれっ?もしかして、また違うこと考えてた?」

「あ…いえ…あの…。…すみません。
先生に…"唯ちゃん"って…言われたから…。」

「あぁ。そっちに引っ掛かってたんだ。
先生はホントに面白いねっ。
意識したことには鈍くて気づかないのに…。
とにかく、助けるのは"先生だから"ってこと。分かった?
今はここまでね。
先生がもう少し成長したらまた続きを教えてあげる。」

「……はい。」

成長って…どこをだろう?

先生として?

人として??

…う~ん……。

どっちにしても…随分先の話しになりそう。

それまで…この質問を覚えておけるかなぁ?

ぼんやり考えていたら…いつの間にか話題は変わってて…

「先生って、フルーツが苦手だよね?」

「はい。えっと…フルーツは苦手なんですけど…苺は大好きです。」

「えっ⁉どうして?」

「う~ん。…可愛いから??」

「はぁ⁉そんな理由??」

「たぶん…?
よく分からないですけど、小さい時からショートケーキも食べてたし…
ミルクをかけて食べますよ。
あっでも、ジャムはダメです。幼稚園のジャムパンは…中を出して食べてます…。」

「ダメでしょ!子供は我慢して食べてるのに。」

「えっ⁉子供にも、出してあげてますよ。
ジャムって栄養より美味しさだから、無理して食べさせなくてもいいかな?って思って。
……………ダメでした??」

「まぁ~栄養のためではないけど…聞かなかったことにするね。
でも、ジャムだとどうしてダメなの?美味しいのに~」

「…ぐちゃぐちゃ…だから?」

先生はクスクス笑いながら

「ホントに見た目だね。後嫌いなデザートやお菓子ってある?」

「そうですねぇ~。クッキーは口の中がザラザラするから…後、ガム、キャラメル、ナッツは
くっつく物が…」

「う~ん。おやつでも色々あるのかぁ~。
どうりで四人が"事前チェックが大事だよ""唯ちゃんの食べ物探しは
宝探し並に大変だよ"って教えてくれるはずだよ。
だったら…好きな物は?
きっとこの方が、早いはずだから!苺みたいにね。」

「好きな物ですか?
先ずはプリンです。子供の時から大好きで…あるとテンションが
上がっちゃうんです。
風邪引いてても、落ち込んでても元気になれるから。」

「それはそうとう大好きだね!
オレなんて、子供の時に食べたようなってくらい食べてないよ。」

「ええっ…美味しいのに…。
後は…マシュマロですね。そのまま食べたりココアに入れたり。
それから、チョコレート‼
ご飯が食べれない時は、ちょっと摘まむと元気になれるから助かります。」

「いやいや‼ご飯を食べなさい…。」

「えっ?…でも…山で遭難したら食べると助かるんですよ?」

「でも、先生は遭難しないでしょ?」

「それはそうですけど…」

「先生のことは、ほっとけないって意味で子供みたいだと思ってたけど
まさか味覚はホントの子供なんて」って言ってケラケラ声を出して笑ってる。

前より怒らないし、よく笑ってるけど…

ちょっと違うような…。

一通り笑った後

「全然思い浮かばないお菓子ばかりだったから、聞いて良かったよぅ。
食生活も把握できたしね。
ついでに、好きな食べ物も聞いて良い?」

これって…何の質問?

小中学生が、お友達になる時にするアンケートみたい。

もしかして、先生も唯とお友達になりたいの?

「あの…食べ物って…ご飯とかですか?」

「そうそう!まさか、チョコレートって答えないよね?」

「そこまでひどくないです。チョコはどうしてもの時なので…」

「じゃあ、その"どうしても"がないよう護るねっ。」

「…はい…。…??
好きなのは、卵‼プリンもですけど…茶碗蒸しやオムレツ。
オムライスに玉子焼き…。とにかく何でも好きです。
だから、嫌いなお野菜は小さく切ってオムレツに入れるようにしてます。
後は…笑われそうですけど…お子様メニューが好きです。
ハンバーグにスパゲティー。後ウインナーも。
あっ‼でも…作るのは和・洋・中・イタリアン…家庭で食べるくらいの物なら
ある程度何でも作りますよ。
ちょっと段取りが悪くて食器を割ったり、時間がかかっちゃうこともありますが。
家では"美味しい"って…誉めてくれるんですよ。
両親が共働きで遅いから…小一で初めて包丁を持ったし
お弁当は、尋ちゃんと二人分毎日作ってるので…夕ごはんも、集まらない時は
ちゃんと作ってます。」

「へぇ~ホント~!!
意外だね。"手を切りそうって怖がるのかと思った。
…だったら…今度、先生の手料理が食べたいなぁ~。」

「良いですけど…チャンスがあるとは思えませんよ?」

「…あったらねっ!」

この時は、冗談としか考えてなかったけど…

そのうちし~っかり、おねだりされちゃうんだよね。
< 41 / 98 >

この作品をシェア

pagetop