キンダーガーテン    ~温かい居場所に~
「ねぇ唯ちゃん。
唯ちゃんは…オレのこと、好きになって…くれたんだよね?」って

顔を覗き込んで諭すように、ゆっくり話し始めた。

「…はい…。あっ…でも…あの…。
先生と付き合いたいとか、彼女になりたいとかは…考えたこともないです。
あの…ホントは…先生のことがどれくらい好きなのかも…よく分からなくて。
ごめんなさい。」

「うん。…分かったよ。
でも、前に"好きって言う症状が…唯ちゃんと一緒"って…言ってたでしょ?
だったら…憧れや尊敬より、もうちょっと好きな気がしない?どう?」

「あぁ…そうですね…。はい…。
そう言われてみたら…そんな気が…。うん…。そうだと思います。」

「ぷっ‼何だかオレ…唯ちゃんを騙す悪徳商人みたい。
とにかく、オレは唯ちゃんが好きで…唯ちゃんもオレが好きで…。
それぞれが育てた片思いが大きくなったから…今度は両思いの気持ちを
二人で育てるって言うのは納得できない?
付き合うって言葉に戸惑うなら、この間言ってた"本物の恋"が見つかったから
今度は…この見つけた"本物の恋"を
二人で育てていくって言う考え方はどう?
………って言うか……オレって…必至だよね……。
唯ちゃんの戸惑いは、気持ちが育ってないのに…オレと付き合えるか?って
ことでしょ?
別に…嫌いな訳じゃないんだよね?
だったら…。唯ちゃんの心が育つようにゆ~っくり付き合うから…
二人で一緒に育てよう。」

唯のことを気遣いながら、優しく話してくれる先生。

「先生と…二人で?…。」

「そっ‼…オレが教えるって…言ったしね。」

先生と付き合いながら…恋を知っていく…。

片思いから…両思いへ…。

不安がないと言ったら…ウソになるけど。先生となら大丈夫な気がする。

「………そうですね。先生となら大丈夫な気がするから…
おつきあい……お願いします。」

「………唯ちゃん???…………ホント??」

「あっはい。
でも…あの…。男の人と付き合ったこと…って…。ホントにないので…。」

「うん。分かってるよ。唯ちゃんのことは、この一年オレなりに見てきたし
…何より、分かりやすいからねっ。
唯ちゃんのペースに合わせるよ。ゆっくり、二人の時間を過ごしながら…
育てていこう。唯ちゃんも、分からなかったら直ぐに言ってね。
我慢はダメだよ。」

「はい。…あっ…あの…。だったら…一つ質問して…良いですか?
あの…"唯ちゃん"って言うのは…良いんですか??…
いつも梓ちゃんに注意してるから…。」

「うん!オレは良いの。
園ではちゃんと"先生"って呼ぶから大丈夫。仕事とプライベートは、分けるから。
だから!
プライベートの唯ちゃんには甘あまだけど、仕事だと今まで通り厳しいよ~」

「ええっ‼」

もしかして…前よりもっと厳しくなるの⁉

「な~んて!やっぱり無理だよなぁ~。
仕事中は気を付けるけど…甘くなりそうだなぁ。」

ホッとして、顔の筋肉が緩んだら…バレたみたいで…

「これこれ、オレが厳しくないからって…甘えたらダメだよ。
甘えるのはプライベートでねっ。」って笑ってた。

「ホントは、ご飯でも食べて帰りたいけど、ご飯デートは唯ちゃんがもう少し
慣れてからにしようね。
正直、今日ok 貰えるなんて思ってなかったから…唯ちゃんの食べれるお店を
リサーチしてないんだぁ。嬉しい誤算。」

そう言って笑いながら車に乗り込み…後ろのシートから取った袋を「はい。」って

膝の上に置いてくれた。

…………??……。

「ホワイトデーだからねっ。チョコとマシュマロが入ってる。
プリンと苺は、今度美味しいケーキ屋さんに行って食べようね。
あと……これ………。」

先生が手に持っていたのは、唯でも知ってるブランドのロゴが

足の裏に刻まれたクマのストラップ。

「梓先生が"唯ちゃんはクマが好きよ"って教えてくれたから…買ってみた。
さすがにこの歳で、一人で選ぶのは恥ずかしかったから…"娘が…"ってウソついちゃった。」

少し照れくさそうに話す先生が可愛いくて、嬉しくなった。

「ありがとうございます。」

早速、携帯に付けて顔の前で揺らしてみた。

真っ白でパールが付いたクマは…少しのんびり優しい顔をしている。

「このクマ…先生みたいです。すごく優しい顔。
今度から…電話やメールをする度に、先生を思い出せそう。」

ニッコリ笑って先生を見たら

「ちょっと唯ちゃ~ん。帰りたくなくなるよぅ~。
オジサンは唯ちゃんに合わせて…これから長~い我慢が待ってるんだから…
手加減してね。」って

ハンドルに頭をのせてこっちを見てた。

……?……なんだろう?…。

もう一度ニッコリ笑ったら

「さぁ~て、帰りますかぁ。」っていつもの先生に戻ってた。

途中、先生が住んでた下宿の前を通ったり、よく行ってた居酒屋さんの前を通って…

学生時代の話しをしてくれたの。

片思いをして…

遠くから見つめたり、声が聞けて嬉しかったり…目が合ってドキドキしたのは

ホンの数ヶ月前のこと。

それから…電話やメールをするようになって…

戸惑いながらも、喜んで。

今日…

先生のこんなプライベートの場所に来て。話しを聞けて…。

ホントに…唯だけ…こんなにしてもらって…良いのかな?

…………唯…だけ…??

そう思うと…信じられないくらい…嬉しくなっちゃって。

「あの…先生。もしかして…唯って……特別です……か??
……あっ‼すみません!…………図々しいこと…聞いて。」

焦る唯に微笑んで

「全然!…特別って?」って…

「あっ…えっと…。先生の昔の話しとかをこうやって聞けてるのって…
唯だけなのかな?って…思ってしまって…。」

恥ずかしくなって…だんだん声が小さくなっていく。

「そりゃあそうでしょ~
もしかして、オレが色んな先生を連れて来てると思った?」

「いえ!…そんな事は‼ただ…えっと…」なんて伝えたら良いのか困っていたら

クスッと笑って

「ごめん。分かってるよ、唯ちゃんの言いたいこと。ちょっとからかっただけ。
今日のオレは、テンションが高いからねっ。
四人には、バスの中で話したかもしれないけど…こうやってゆっくり話したことはないよ。
唯ちゃんが特別…。
少しでも、オレのことを知ってもらいたいからねっ。
なんたって!…彼女だもん。」

「えっ…あっ…。彼女。……そっか……。彼女…。
……ってことは……。先生って…もしかして…唯の…彼氏さん??」

「はぁ⁉今更⁉
まさか、そこから分かってなかったの⁉」

「あっ…いえ。あの…分かってないって言うか…
そういう風には考えてなかったというか…付き合うって…そういうことなんですね。
う~ん。………そっかぁ………。」

だったら、いつか先生と…デートしたり手を繋いだりすることも…

あるんだぁ~。

何だか不思議。

「やっぱり…不思議です。先生が…彼氏さんなんて…。」

「えっ!唯ちゃん。
まさか、付き合うのが怖くなった?不安?」

焦り始める先生。

違うって伝えないと…

「あのっ…違…」

「ごめんね。もう無理だよ。離してあげれそうにない…。
………なんてねっ。
離してあげれないけど…唯ちゃんが納得いくまで待つよ。
付き合うのは…保留にしようっかぁ?」

「あの…だから…違うんです。
付き合うってことが…ちゃんと分かってなかったって言うか…
急だったから…まだ片思いとの違いが…ピンとこなくて。」

拙い唯の説明に、少しづつ笑顔になっていく先生。

"保留は嫌だって思ってくれたんだ。ホントに心がついてきてないんだろうなぁ。

園でのオレのイメージも原因だから…

プライベートの時間を大切にしようかなぁ。"

「ねぇ~唯ちゃん。来週から春休みだし…何処か行こう。…デート。」

「えっ。…デートって…。……。」

いきなりの展開に目をパチパチ。

「嫌?もしかして二人だと恥ずかしい?」

「えっと…まぁ…。
あの…。先生、デートって…どんなものですか?
今まで学校から一緒に帰ったり、公園で話したり…。後、友達と皆でファミレスに行って
ご飯を食べるくらいだったから。
ホントは河原に行ったのが…人生で一番すごい出来事で。
あっでも今日、新しく更新されましたけど…。」

"そりゃあ、付き合うことと彼氏が結び付かないのもあたりまえかぁ~。

唯ちゃんに告白するまでかなり大変だったけど…

ホントは彼女になってからの方が、大変なんだろうなぁ~。

………まぁ、頑張りますかぁ!"

「だったら、今回は唯ちゃんに合わせて四人にも来てもらおうかぁ。
デートにお守り付きなんて初めてだけど、それなら安心でしょ?」

「はい。…でも、先生は良いんですか?」

「良いよ。ゆっくりって約束だからねっ。ただし、からかわれるのは覚悟しておいてね。
まぁ主にオレだろうけどね。
お昼はお弁当ねっ。!勿論、唯ちゃんの手作りで‼
初デートにお邪魔虫四人も連れて行くんだから、…これくらいのワガママは許してね。
四人のはいいから、オレのねっ。好き嫌いはないから、安心して作って。
おぉ!何だか楽しみになってきた‼」

そう言ってニコッと笑う先生。

四人を連れて行くことに唯が気を使わないための優しさだよね。

ホントはダメなんだけど…

今回は先生に甘えさせてもらおうかなぁ。

それからは、子供のことや他愛のない話しをして車を走らせた。

「そろそろ着くよ。」

気づくと家がもうすぐに…。

「えっ⁉家が分かる??」

「あぁ~。前に調べたことがあって。
!!違うよ!ストーカーじゃあないからねっ。
この辺りから、入園したい子がいて…バスが通れるか時間がどれくらいかかるのか
調べたんだよ。
その時、海晴先生が唯ちゃんの家を教えてくれて…。」

おしゃべりしてる間に車が家の前にとまった。

「妹さん、まだみたいだね。
だったら、家の電気を点けておいで。ここで待っててあげるから。
点けたらもう少しここで話していよう。」

鍵を開けて入ると…やっぱり中は真っ暗…。

それでも外で先生が待っててくれるって思うと…安心感があるの。

いつもはかけ上がる階段も…今日は歩いて上がれる。

ベランダから覗くと…下には先生の車が見えた。

今日から…彼氏なんだなぁ…。こんなに近くにいられるんだ。

"一人で淋しい思いをしないように…二人で恋を育てようね"って

言ってくれたんだよね。

先生の言葉が、今スーっと体の中に入った気がした。

もしかして…一番近くで見守ってくれるってことだったのかな?

付き合うとか彼氏とかって…まだ不思議な気がするけど…

好きになった人が…自分を見てくれるって…すごいことだよね!

幸せ過ぎて…怖いことだけど………

幸せ。





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