キンダーガーテン    ~温かい居場所に~
バレンタインから一ヶ月…。

今日は、待ちに待ったホワイトデー。

正し、この日を楽しみに待ってたのは…私以外の四人。

朝から先生の行動をチェックして、報告しあってるみたい。

「ねぇ~朝、車から降りる時…大きな袋を持ってたよ‼」

「何を買ったのかなぁ?」

「まさか‼園で告白⁉」

「それはないでしょう。たぶん、夜の電話だよ‼
でも、ホワイトデーの贈り物は園で渡すだろうから…ちゃんと見ておかないと‼」

「帰りに待ち合わせて…とかは?」

「あぁ~それは、ナイナイ!!
だって唯ちゃん"今日は彩ちゃんの所に行く?"って聞いてきたもん。
まぁ~デートだから無理だけどね。」

「あの子はウソが直ぐバレちゃうから…こっそり逢うことはしないね!」

コソコソ話してるつもりでも、先生にはお見通し。

『情報屋には、賄賂を‼』って考えた先生は

大きな袋に四人分のクッキーの詰め合わせを買ってきた。

「いつもお世話になってます…」

クッキーをもらって、おおはしゃぎの四人。

「え~っ、チョコをあげなかったのに、悪いねぇ。」

「まぁ~チョコより、可愛い子をあげるんだから当然だよ~。」

「協力者のお陰だもんね!上手くいったら、もっと良いもの奢らせよう!!」

私だけ貰えず…いじけていたから

四人の物騒な会話は耳に入ってこなかった。

良いなぁ~。私には…なかった。

別にクッキーが食べたかった訳じゃあないんだよ。…食べれないし…。

あれっ‼

もしかして…クッキーが苦手って言ったからかなぁ?

でも…四人と一緒が良かったなぁ~。

一人だけ、無いなんて…淋しい。

落ち込みながら、一人淋しく帰っていたら…携帯にメールが入った。

送り主は…先生。

"お疲れさま。今、どこ?
駅で待ってるから…気を付けて、帰っておいで"って…。

園から駅までは、歩いて10分。

電車で二駅揺られたら私のお家。

不思議に思いながらも、急ぎ足で駅に向かうと…

いつも駐車場で見る、シルバーの車が目に入った。

近くに寄ると「乗って。」って、中から助手席のドアを開けてくれ、

乗るか乗らないか迷っていたら。

「後ろから車が来るよ。」と急かされて助手席に。

今日は自分でシートベルトを嵌めることができてちょっと満足!

自慢気に先生を見たら…笑われた。

「急にごめんね。海晴先生に"今日は集まらない"って聞いたから。
門限は…無いよね?
今日は何時まで一人?」

「えっと…。両親は…夜中に…帰るかなぁ?
妹は…ホワイトデーで遅くなるって言ってたから…10時過ぎくらいかと…。
あっ!…そういえば⁉
先生のアドバイスを伝えたら、妹と彼氏で話し合って…別れるのを止めたみたいです。
今日の電話で報告しようと…。
ホントにありがとうございます。
私だけだったら…あのまま別れてたかも。
大学に入ったら、両親に許しをもらって婚約するって。
何でも、あまり遅くなったら…両親揃って結婚出来ないかもしれないからって…
私にも早く良い人を探せって…言ってました。」

「ホントに先生とは、正反対なんだねぇ。」

「はい。でも…だからかな?凄く仲が良いんですよ。
周りには、二人を足して2で割った方が良いって言われるんですけど…
私は、二人が今の性格で良かったなぁって思います。
だって、違うからお互いを補って楽しく過ごせてるって思うから。」

「先生らしい考えだね。だから、先生のクラスはのびのびしてるんだろうな。
今ある性格や個性を、受け入れてもらってるから。
子供にとって、最高の先生だよ。」

「う~ん。…難しい事はよく分かりませんが…
どの子も大好きなので、このまま大きくなってもらいたいです。
のびのびし過ぎて、たまに主任先生の雷が落ちちゃいますけど…。
あっ‼そういえば…。
先生?どうして帰りに待っててくれたんですか?」

「あぁ~ごめんごめん。話しが中断しちゃったねっ。
『ドライブに付き合って』って言うつもりで時間を聞いたんだけど
もう随分進んじゃったね。」

「すみません。話しを止めちゃったんですね。
ところで…何処に?それより…どうしてドライブに?」

「何処かは、着いてからねっ。説明しにくいから。
…どうしてかは…まぁ詳しくは…着いてからだけど…
今日はホワイトデーでしょ?四人にはクッキーを渡したんだけど…
先生にはまだだから。
クッキーは苦手だって言ってたし、嫌いな物も多いから
食べ物よりも、一人淋しくないように…
ドライブなんてどうかなぁ~って思って…。
どう??」

「あっはい。嬉しいです。
って言っても…先生とのドライブは…ドキドキしますけど…。
でも、やっぱり嬉しいです。
いつもお家に帰ると…真っ暗で…帰っても一人だと思うと淋しくて…。
四人が遊んでくれるから…一人の時間は大分減ったんですけど…
楽しい時間を過ごすと…余計に一人の時間を実感させられて…。
今日は集まらなかったし、一人の時間が長いって覚悟してたから
驚いたけど、先生と過ごせてホントに嬉しいです。」

「そんなに喜んでもらえると、オレも嬉しいよ。
あぁ~でも…今日は仕事帰りだから…あまり遠くには行けないんだ。
誘っといて…ごめんね。
また今度、休みの日にゆっくり出掛けようねっ。」

園のことや家のこと、子供の頃のことを話してたら…一時間はあっという間で

「はい着いたよ。降りようか?」って声をかけてもらうまで

あまり周りが気にならなかった。

降りたところは、少し小高い丘にある展望台。

「足元大丈夫?」

一歩前を歩く先生について丘を少し登ると…

目の前に、キラキラ光る町並みが広がった。

「山の上じゃあないから、まだまだ家の灯りがハッキリ見えてて…
それ程綺麗ではないんだけど
人の温かみが分かる距離で…オレは好きなんだ。
学生の頃に住んでた街で…一人になりたい時や考え事があると…よく来てたんだ。」

「キレイです。
夜景なんて、見に行った事がないから…
もっと綺麗な所があるのかもしれないですけど
今の私には…初めてで…一番キレイな景色です。」

「そう言ってもらえると嬉しいねっ。
ここは、いつか先生と来れたらなぁって…思ってた所なんだ。」

「私と??」

「うん。…先生と…。
オレの好きな場所を知ってもらいたかったから。」

どうして私なのかは、分からないけど…

先生の大切な場所に"連れて行きたい"って思ってもらえたのは嬉しい。

何だか…特別になったみたい…。

自分の想像に頬が熱くなったけど…ここは暗いから先生には見えないよね?

心配になって先生を見ると、柵に手をかけて街を見ていた。

先生が学生時代を過ごした街…。

どんな時間でしたか?

誰かに恋をして、一人でここに来たことはありましたか?

先生の背中に心の中で話しかけていたら

不意に振り替えって

「さっき…クッキーの代わりに…先生が淋しくない時間をあげるって言ったでしょ?
…あれね…。
今日のドライブのことじゃあないんだ。
もちろん、それも入ってるんだけど…。これからの時間…全部ってことで…。」

「全部??…これから?…」

言われている意味がよく分からなくて…先生を見つめていたら。

「先生には、回りくどい言い方はダメだったね。」って笑って

「先生…。…唯ちゃん。
オレと付き合ってくれませんか?
…これからは…淋しくないように…二人で過ごそう。」って…

…………?……。えっ……?……?……。

…えっと…。

先生と…………付き合う?…………?……?……………唯が??…………。

…………ええっ!!………!!

「突然で…びっくりした?」

優しく微笑む先生に、声も出せず首を縦に振って返事をした。

「オレ的には…けっこう前から伝えてたんだけどなぁ~。
四人も…もしかしたらもっと沢山いるかもしれないけど…
とにかく、周りは気づいてるのに…
どうも本人だけには伝わらないから…告白したんだよ。」

びっくりし過ぎてまだ声も出せない私に

「遠くで見守ろうって思ったんだ。10も年上のオヤジだし。
なのに…気になって…
見守るはずが助けたいって思い初めて…
電話やメールをするようになって…。
それが…今度は…。もっと近くで支えたくなって…。
……告白しちゃいました。
嫌ならもちろん断ってくれて良いからねっ。
それで仕事がしづらくなるなんて事はないから。」

「あの…一つ聞いても…良いですか?」

「うん!何でも聞いて。」

「あの…。…付き合うって言うのは…。
……先生が…唯のことを…好きだから??」

私の質問に、一瞬びっくりしたような顔をした。

「もちろん!!」

「…どうして?…?」

「どうしてって聞かれると…ちょっと難しいけど…。唯ちゃんだからかな?
大人しくてのんびりしてて…頼りないけど…一生懸命で…。
抜けてて危なっかしくて…優しくてお人好しで…
良いところも、悪いところも含めて…好きだからかな?」

「あっ…えっと…あの…え~っと…。
そう言う事とは違って…。あの…何て言って良いのか分からないですけど…。
あの…どうして先生みたいな人が?って…。
えっと…先生は大人でしっかりしてて…みんなに頼りにされて、尊敬出来る人で…
とにかく凄い人なのに…どうして唯なんかを…」

「ねぇ~唯ちゃん。いつも言ってるでしょ?"唯なんて"って言うのは止めなさいって。
唯ちゃんはホントに良い子なんだよ。」

「えっと…あの…そう言うことではなくって…」

「うん?…良いよ。ゆっくり考えてごらん。」

「あの…。唯は…ずっと…先生に片思いしてたんです…。
あっ…やっぱり…ずっとでは…なかったです。
あの…佐藤先生の件で…ご飯を食べに行った時の帰りからです。
あの時に、彩ちゃんと海晴ちゃんに…あっ!…彩先生と…あれっ?…」

「良いよ。
彩ちゃんと海晴ちゃんで怒ったりしないよ。」

「はい。
…それで…二人に先生のことを教えてもらって…。
それまでも…先生は気になる人だったんですけど…怒られるからだと思ってて…
あっ!ごめんなさい…。
だから、自分の気持ちが分からなかったんです。
話しを聞いて嬉しくて…心が温かくなって…好きだなぁって…。
それから…片思いをすることになって…。
でも、唯の好きは…唯の心の中だけの好きで…ずっと…一人の好きだったんです。
だから…先生と繋がるのは…。
先生は唯にとって、雲の上の人で…。
どんなに好きになっても、振り向いてもらうことのない存在で…。
ホントは、電話やメールをもらうのも…"良いのかな?"って…不安で…。
先生が"大丈夫"って言うから…もう訳が分からなくなって…。」

あっ…マズイ…。涙がこぼれそうだよ………。

「恋は…育てるものだって言われて…。私なりに…大切に…育ててたのに…。
片思いが苦しくなって、不安になって…。もうダメかなって思ったら…
うっ…ヒック…。
先生が…こんなこと…言う…ヒック…から…。
もう…何が何だか………え~ん……分からない……です~。
だから…ヒック…どうしてって…ヒック言ったのに…ヒック…。」

「あぁ~ごめん…。ねぇ~唯ちゃん~。泣かないで…。」

突然泣き始めた唯に、オロオロする先生。

取り敢えず、ベンチに座らせて頭をさすり始めた。



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