キンダーガーテン    ~温かい居場所に~
担任の先生を好きになった尋ちゃんと教え子に恋した和也さん。

もしかしたら…唯達以上に奇跡な二人なのかも…。

からかわれてた事も忘れて、一人空想の世界に入っていたら

いつの間にか隣で笑っていた尋ちゃんはいなくなってて

先生達は男二人で盛り上がってた。

「今日はホントにすみませんでした。
お二人の大切な一日を…。ホントに申し訳ないです…。」

謝る和也さんに「大丈夫」って笑う先生。

二人で飲みながら話してる姿が、さっき聞いた先生の兄弟の話しとダブって

嬉しくなっちゃう。こんな感じなのかなぁ?

先生がお姉ちゃんしてる唯を見たかったのも、こんな気分から?

「今日の千尋は…まぁ~元々元気な子なので、そうは変わらないんですけど…
いつも以上にはしゃいでて…。
お二人にはムリをさせてしまいました。…すみません。
唯さんが一緒で嬉しかったのもあるんですけど…
二年間、教師の僕との恋愛で、沢山我慢をさせてしまったから…
隠さず受け入れてもらえる環境を喜んだんだと思います。
もし、同じ年頃の子と恋愛をしていたら…
帰りにデートしたり、友達と恋の話しで盛り上がったり…
コソコソせず、時間を過ごせたんだと思います。
自分が好きにならなかったら、付き合わなければ…もっと楽しい高校生活を
送れたのかと、考えることもあって…」

黙って聞いてたんだけど…何だか我慢が出来なくなって…

「あの。尋ちゃんは、この二年間…後悔なんてしてません。
大切な人に逢えて、幸せだと…。ホントに可愛い笑顔で話してくれました。
初め、和也さんとの交際を聞いた時…びっくりして…
正直、姉としては…反対だと思いました。
でも、尋ちゃんの顔を見たら…大好きな気持ちが伝わって…
私は、応援しようと決めたんです。
和也さんが可哀想なんて言ったら、尋ちゃんが悲しみます。
こっそりデートをしても、二人には大切な思い出ですよね?
もしも可哀想だと思うなら…今以上に幸せにしてあげて下さい。お願いします。」

尋ちゃんの座っていた場所には、いつの間にか先生が座ってて

頭を撫でてくれた。

「はい、約束します。」

そう言った和也さんは、とっても真摯な顔で

この人なら安心して、大切な尋ちゃんを任せられるって思ったの。

大切な人の幸せを考えて、少し真面目で、ちょっぴり重たい空気を破ったのは

やっぱり尋ちゃん。

「あぁ!まだ片づけてない!
もぅ‼私なんて、今自分の部屋を片づけたんだよ!
お姉ちゃんは千尋の部屋を使ってね。
先生、別にお姉ちゃんの部屋で一緒に寝ても良いけど…
初デートだからと思って、片付けた。
私と和くんは、リビングで寝るから。
今日は泳いだし、二人は遠出のドライブで疲れた上にビールまで飲んだから…
片づけて早く寝よう!」

あっ!そうだよね?

先生達は、運転で疲れてたのに…ホント、気が利かない。

急いで片づけて、二人に「おやすみ」を言って…二階に上がった。

「唯ちゃんの部屋に行くの…何だかドキドキする。」

先生らしくない言葉に笑いながらドアを開けたら

「可愛い部屋。唯らしいっ…」って…

唯の部屋は、一人でも淋しくない様にと

白を基調に、ピンクで明るめの部屋。

ぬいぐるみも沢山あるから…子供部屋のイメージ。

友達を呼ぶと"子供部屋??"ってからかわれる。

この部屋を見て"唯らしい"って…先生は唯にどんなイメージを持ってるんだろう?

クルリと部屋を一周見て回った先生が、本棚の前で足を止めた。

何だろう?

唯も視線を向けて…

あぁ‼

そこにあったのは、先生の写真。

去年の忘年会の時に、幹事の夏苗ちゃんが撮ってくれたの。

慌てて後ろに隠したのに…

「見せて」って、大きな掌を唯の前に出された。

怒られる⁉

不安に思いながら渡すと

「可愛い事をして!これって、忘年会?」って笑ってた。

…どうやら怒られないみたい。

「あっ!はい。あの…夏苗ちゃんが撮ってくれて。…あっ!でも…
隠し撮りをお願いした訳では…。それに…夏苗ちゃんがこっそり撮った訳でも…
たまたま先生が…。
だから…片思いの唯にって…」

唯の説明をクスクス聞きながら

「怒ってないよ。
どうも唯ちゃんは、オレが怖いみたいだね。
馴れて、信用してもらうのは…時間がかかるかなぁ。
短気は損気って言うけど…ホント、今頃痛感してるよ。
愛情をいっぱい注いで、頑張らないと‼
でも…ホントに怒ってないよ。嬉しかったの!
こんなに大切に飾ってもらえて…。今度は、二人の写真を撮って飾ろうね。」

そういって、ポンって頭に手をのせたの。

先生の助手席に座ったり、手を繋ぐのは…まだまだ恥ずかしくて

ドキドキだけど

こうやって、頭をポンポンされたり撫でられるのは…好きかなぁ。

何だか守られてる気がするの。

言ったら怒られそうだけど…大きな手がお父さんみたいなんだよね。

安心していられる。

「おやすみなさい。」って挨拶を交わして先生は唯の部屋、唯は尋ちゃんの部屋に移動した。

はぁ~。疲れたぁ。

あまりに色んな事がありすぎて、パンク寸前だよ。

まさか、この壁の向こうに先生がいるなんて…

唯の部屋で寝るんだよ~。信じられないよ。


出逢った時…とても優しい笑顔で励ましてくれた。

それからは、失敗ばかりの唯をいっぱい怒って…怖かった。

でも、ホントはそれさえも優しさで、心配して気にかけてくれたの。

一年で、色んな先生に触れて

今は彼氏として…唯の隣にいて、こうして唯のお家にお泊まりもしてる。

とっても不思議だし、信じられないよ!

今夜は、ドキドキして眠れないなぁ。

って思ったのに…思った以上に疲れてたのか…起きたのは…

…………コンコン……コンコン…コンコン。

「唯ちゃ~ん、おはよう…まだ寝てる?……」

ドアをノックする音と先生の声。

………………??…………?……?……。先生の声⁉

あっ‼先生の声!

目を覚ますとドアの外から先生の声が聞こえた。

「おはよう…起きた?」

「あっ、はい。すみません。……ちょっと待っててもらえますかぁ?」

「あっ、起きなくていいよ。
ごめんね。…ご両親何時ごろかと思って。そろそろ帰った方がいいかなぁ?」

「あっ!…夕方だから大丈夫です。
着替えたら朝ごはんの用意をするので
もう少し部屋で待っててもらえますか?
まだスッピンなので…あの…」

「あぁ!…ごめんね。朝ごはんはいいよ。
だったら一度部屋に行くから、用意が出来たら来てくれる?」

「はい。直ぐに用意しますね。」

「急がなくて良いよ。それより、尋ちゃん達は起こさないでね。
昨日そう頼まれたから。」

「はい。…あっ!だったら…朝ごはんの用意が…」

尋ちゃん達の寝てるリビングは、キッチンの直ぐ隣。

起こさずに料理を作るのは難しくって。

「うん、大丈夫。朝ごはんは、車で出て何処かで食べよう。
支度したらおいで。」

直ぐに着替えとお化粧を済ませて、尋ちゃんに置き手紙を書いて

先生のところに行った。

ドアを開けると「おはよう」って

園でする挨拶とは違って、自分の部屋でするのはとても恥ずかしい。

「おはようございます。…ちゃんと眠れましたか?
あの…お寝坊してすみません。それに…朝ごはんも…」

恐縮する唯に

「良いよ。朝ごはんは、いつかの楽しみに取っとくから。
それより、今日は何か予定がある?
もしないなら…二人でデートしない?」

「デート?」

「うん。…もしかして…まだ二人は嫌?」

不安そうな顔で見るんだもん。断るなんて出来ないよ。

それに唯だって…もう少し先生といたかったから…

ホントは凄く嬉しいの!

「いえ。嫌ではないです。…嬉しいです。」

「あぁ~良かったぁ‼断られるかと心配だったんだぁ。
昨日この部屋で写真を見つけたら…どうしても二人の写真が
欲しくなったんだよね。
昨日のデートで写そうとカメラは持って来てたんだけど…
中々切り出し難くて撮れなかったんだ。
初デートの写真が欲しいなんて、女々しい?」

「そんな事ないです!
私も欲しいって思うから。
それに…昨日のデートをそんなに大切に考えてもらってたなんて。」


「あぁ~。恥ずかしい。
ホント中学生に戻った気分だよ。
だったら…出掛けよう。」

照れた自分を隠すためか、いつもより強引な先生。

「あの…もうちょっと待っててもらえますか?
出掛けるって思ってなかったから、尋ちゃんに"ご飯を買ってくる"って
メモに書いたので。書き直してきますね。」

急いで尋ちゃんのメモを書き直して、こっそり服とお化粧を変えたの。

だって…先生と二人のデートなんだもん。

「お待たせしました。」

唯の変化に気づいたのかな?

先生がニコニコ笑ってる。

うぅ~恥ずかしい~。…浮かれてるって思われた?

「じゃあ、行こうかぁ~」

少し慣れ始めた助手席。

いつかここが唯の指定席になると良いなぁ~。

コンビニに寄ると…沢山のパンとおにぎり、おやつにジュース。

もしかして…昨日のご飯、少なかった?

心配する唯に

「今日は海に行こうと思ってるからお昼分もね!
さすがに泳がないから安心してねっ。」

「あの…海は楽しみなんですけど…保護者や子供に会わないですか?
前に園長先生が…恋愛禁止だって言ってたから…。
見つかって、お仕事辞めることになりませんか?」

「あぁ~それは大丈夫。あの人オレが唯ちゃんを好きなこと気づいてて
からかって言っただけだから。
園長だって奥さん…元先生だしね。
節度ある行動してたら何も言われないよ。
それにオレ…仕事で唯ちゃんを贔屓して甘やかさないもん。
まぁ~しっかりしてもらう為に他の先生より
厳しくなっちゃうかもしれないけどね。」

「えっ‼そうなんですか?
前より⁉
あっ…もちろん、悪いところはそうしてもらっても良いんですけど…。
あの…今より怖いと近づけなくなるし…
デートも出来なくなるかなぁ~って…」

必死に、優しい先生でいてってお願いしてるのに…

大笑いするんだよ!

もぅ~唯にとっては大問題なのにぃ。

怖い彼氏なんて嫌だもん。これより怖い彼氏なんて嫌だよ。

「ねぇ唯ちゃん。
唯ちゃんは"怒られないように頑張ります"とは言わないんだ。」

「だって…
今までだって、怒られないように努力してても上手くいかなかったから
無理かな?って。
それに…先生の怒るツボも分からないから…」

ますます笑いながら

「怒られるの前提って…唯ちゃんらしいよね。
まぁ泣かれるとオロオロしちゃうし、デートもいっぱいしたいから
怒らないように頑張ります!」

って…やっぱり笑ってる。

先生って…思ったよりイジワルだしいじめっ子だよね。

「先生。
でも、ホントに唯とお付き合いして大丈夫なんですか?
園長先生に怒られてクビになりませんか?
園に先生がいないなんて考えられないし、会えないのは嫌だから…
ホントに大丈夫って分かるまでは、内緒にこっそりと…」

「唯ちゃんってホントに可愛い‼
甘いって四人にからかわれても…もう怒れないなぁ~。
まぁ今まで怒ってたのって、ヤキモチだから
そういう意味では、もう怒らないだろうしね。
なんたって‼彼女だもん。
唯ちゃんが内緒にしたいなら、全然良いよ。
ただし、唯ちゃんに出来るならね。
無理な気もするけどなぁ~。四人とオレらだけの内緒かぁ~。
でもやっぱり、唯ちゃんからバレると思うよ。」

「えっ‼私、口は軽くないですよ。
先生がずっとお仕事出来るように、頑張りましょうね。」

変わらずクスクス笑ってる先生。

ホント、いつみても先生って笑顔だけど…

もしかして…唯を見て笑ってる⁉

< 48 / 98 >

この作品をシェア

pagetop