キンダーガーテン    ~温かい居場所に~
「先生。
明後日、四人と一緒のデートが済んだら…今度は二人で行ってもらえますか?
ドキドキするし、またいっぱい失敗するかもしれないけど…唯も先生とデートがしたいです。
あの…いつも唯に付き合わせてごめんなさい。」

恥ずかしいってワガママ言って……ずっと座らせたままで……。

情けなくて俯いたら、頭を撫でられた。

「全然!
言ったでしょう、オレも今の時間を楽しんでるって。
それに、今回はお家での唯ちゃんが見たかったから尋ちゃんの話しにのったんだしね。
尋ちゃんと姉妹してる唯ちゃんが見れて、満足だよ‼
それに、ドライブ中は二人だったから沢山話せたしね。
でも、唯ちゃんって尋ちゃんといる時と四人でいる時…あまり変わらないねっ。
もしかして、誰といてもそうなの?」

「う~ん。どんな風に?
自分だとよくわからないです。」

「周りの強引さに困った顔をしながら、笑って付き合ってあげてる。
一見したら、妹みたいに世話をやかれて頼ってるんだけど…
ホントは周りのワガママに合わせてあげてるお姉ちゃん。」

えっ⁉先生って…唯のことそんな風に見ててくれたの?

てっきり、手のかかる子供って思ってると思ったから…嬉しい‼

さっきまで唯達の周りを、人が行き交っていたんだけど

流石にこれだけ長く話してたら周りに人が見えなくなった。

あたりまえだよね。

みんな泳ぎに来たのに、唯達みたいにロビーのベンチに座ってないよね。

……唯に付き合わせて…先生、つまんないだろうなぁ~。

そう思ったら急に申し訳なくなってきて…

「あの…あのねっ。
先生…唯のビキニ姿見ても笑わない?
尋ちゃんみたいに胸もないし…幼児体型ですよ?………いい??」

パーカーを脱いで先生の方を向くと…一瞬びっくりして…

その後フワァと笑顔に。

「先生…これでも良かったら泳ごう‼」って誘ったら

「ほ~らねっ。やっぱり自分の気持ちより、オレを優先したでしょ?
唯ちゃんは十分お姉ちゃんだよ!
せっかくビキニになってくれたから…泳ぎますかぁ~」って優しく手を引いてくれた。

尋ちゃん達と四人で泳ごうと思ってたのに…

見つけた二人はラブラブで、和也さんに抱っこされて二人仲良くジャグジーを…

「………流石に年季の入ったカップルは違うねっ。
目のやり場に困っちゃうから…二人で泳ごうかぁ~。」って元いた場所に逆戻り。

それから一時間、先生と一緒に温かいお湯に浸かって足をバシャッバシャッして

遊んだり、お水を掛け合ったりして子供みたいに楽しんだ。

始めこそ体のラインが気になったけど…唯が気にしないように接してくれたから

いつの間にか忘れてた。

「喉が乾いたぁ」っていう尋ちゃんに付き合って、みんながカフェに異動したところで

「ねぇ~お姉ちゃん!今日って…二人とも泊まりの仕事だよねぇ?
まぁ~建前上は…だけどね‼
バレバレなのに、ホント…馬鹿‼」

相変わらず、辛辣な尋ちゃん。

「うん。泊まりの仕事って…メールがきてたよ。」

「普通、途中で泊まりに変わらないって!
お姉ちゃんだから適当にメールで済ませてるんだよ。怒れば良いのにぃ~!」

苦笑いの三人を無視して

「まぁ~こっちも好きにさせてもらうけどね。
だったら今日…和くんのところにお泊まりして良~い?」

「えっ⁉…あっ…。うん。
そっかぁ~。…一人か…………。」

先生が心配そうに唯を見てる。

笑顔で"良いよ"って言わないと‼

「ダメ~??だって~せっかく楽しいのに…帰りたくないよぅ。
ホントなら何処かにお泊まりして帰りたいくらいだもん‼
まぁ~着替えも何もないから無理だけど。
だから、ねっ。
なんだったら、お姉ちゃんも先生んちにお泊まりしたら⁉
ねぇ~先生、良いでしょう?」

「えっ⁉…いやぁ…。流石にそれは……。」

今度は先生に、おねだりしてる………。

もぅ~!先生、困ってるのに…。

仕方ないなぁ!唯が一人でお留守番しよう‼

そう決心した時

「あっ⁉だったら、和くんが家に泊まってよ‼
そうだ!!先生も泊まろう‼
それならお姉ちゃんも淋しくないし。
うん!良いアイデア!!
決定~っ!!」

「「「えっ⁉」」」

三人の驚く顔を無視して、一人サッサと決めた尋ちゃん。

「ほ~らっ!だったら早くお家に帰って、ゆっくりしよう。
わぁ~楽しみ‼
周りの子達は、彼氏と修学旅行に行けて羨ましかったんだぁ。
和くんとは一緒に行ったけど…内緒だから思い出なかったもん。
お姉ちゃん達とやり直しみたい‼ねっ。楽しみだね‼」

皆それぞれに思うことはあったけど…

今の尋ちゃんに言える人はいなかったの……。

「先生~。ごめんね…。」

帰りの車の中では……ひたすら平謝り。

ホントは尋ちゃんをお泊まりさせて、唯が一人でお留守番すればいいことなんだけど…

今日とっても楽しかったから…一人になるのが…淋しかったんだぁ。

「いいよ、気にしなくて。
オレも唯ちゃんを一人にさせずにすんで…ホッとしてるから。
まぁ~こんなに早く、唯ちゃんの家に行くのはびっくりだけどね。
おまけに、お泊まりなんて…。
それより、ご両親は大丈夫?ホントに帰らない?
留守中に泊まりに行くのは、気が引けるんだけどね…。
帰ったら、娘二人が彼氏をお泊まりさせてたなんて…凄いショックだろうから…。
唯ちゃんのご両親に悪いイメージを持ってもらいたくないからね。
とにかく、そのことが心配だよ。」

「それは…大丈夫です。…泊まりって言って、帰ったことないから…。
むしろ、帰るって言って帰らないことがあるくらいで…。
一応、尋ちゃんがさりげなくメールするって言ってました。
"卒業パーティに家を使う"って‼
尋ちゃんいわく、このメールで自分の卒業を思い出すかもしれないって。」

「そっかぁ~。
それなら泊めてもらうねっ。
夕ごはんはどうする?唯ちゃんも疲れてるし、途中で食べて帰ろうかぁ。」

「それだと先生と和也さんがアルコールを飲めないから…お好み焼きでも
良いですか?
それなら、各自で焼けるから。
尋ちゃんにメールして、近くのスーパーで買い物して帰ります。」

途中、買い物をして7時頃家に着いた。

お昼が軽かったから…皆お腹がペコペコ。

尋ちゃんに先生と和也さんの相手をお任せして、キッチンで材料を切ってたら

「何か手伝おうか?」って入って来ちゃった。

直ぐ後ろに立って、手元を見てるから…ドキドキしちゃう。

「だっ…大丈夫です!先生も…お疲れだから…和也さんとテレビでも…どうぞ。」

噛み噛みになりながら、頑張って会話したのに…ニコニコ笑うばかりなの。

「先生~」

唯の泣きが入っても…「なぁ~に?」って…

先生…絶対、唯をいじめて楽しんでるよ!

少し拗ねた顔をしたら

「ごめんね。だって、唯ちゃんのエプロン姿が見れて嬉しいんだもん。
おまけに、オレのためにご飯の用意してくれてるし。
邪魔しないから、ここに居させて。」

甘えん坊の顔をされて断れる人なんて…いないよね。

"うん"って言っちゃうよぅ‼

諦めて笑うと、ダイニングテーブルの椅子に腰掛けた。

「だったらここで海老の殻を剥いて下さいね。」

「うん。」

うわぁ⁉可愛い。

きっとこうやって、お母さんのお手伝いをしてたんだろうなぁ?

その後もネギを切ったり、山芋を擦ったりと沢山お手伝いをしてくれて

ご飯の用意が完成した。

ホットプレートで焼きながら、唯と尋ちゃんはお水。

和也さんと先生は、ビールで乾杯した。

「ビールは…」って遠慮してる二人を無視して、サッサと缶を開ける尋ちゃん。

諦めて、二人も飲んでくれた。

年齢も仕事もバラバラで…出逢うことのない人達。

でも…

恋をして、こうやって同じ時間を共有するのって…なんだか不思議。

「ねぇ!お姉ちゃんと先生って、いつから付き合ってるの?
出逢いって、幼稚園だよね?」

尋ちゃんは相変わらずテンションが高くって…アルコールも飲んでないのに

いきなり質問責め。

「付き合ったのは10日くらい前かなぁ?ホワイトデーの日。
あっ!尋ちゃんと先生が会った日だよ。」

「えっ⁉…それって…もしかして…今日が初デート?」

「うん。」

急に固まる尋ちゃん。

「ごめ~ん!…ごめんなさい‼
まさか初デートなんて…。
お姉ちゃんが先生の車に乗って遅くまでいたから…てっきり‼
うわぁ~!!どうしよう…」

涙目で和也さんを見る尋ちゃん。

さすがの和也さんもびっくりしたみたいで…先生に平謝り。

「いいよ、気にしないで。元々、二人だと緊張するって言うから
友達を誘うつもりだったし。
まぁさすがに、今日のお泊まりはびっくりだけどね。
最終的に決めたのは、オレ達だから…気にしないで。
それに、唯ちゃんと二人のデートはもちろん楽しいけど…これから沢山あるからね。
妹といて寛いでる唯ちゃんを見れて、楽しかったよ。」

相変わらずおおらかで優しい答えに、心が温かくなる。

まだ謝ってる二人に笑いながら

「唯ちゃん、焼けたよ。」ってお皿に取ってくれた。

「いやぁ!先生、優しい‼お姉ちゃん、良いなぁ~」って

和也さんに甘えるようにお皿を出してる。

「ねぇ~どっちが告白したの⁉」

さっきまで、申し訳ないってシュンとしてたのに…もう元気になってる。

「もちろんオレだよ。一年の片思いの末やっと」

「えぇっ‼すご~い。お姉ちゃん、いいなぁ~。
先生って、尋と一緒だね~!私も長い片思いだったもん‼
だから…今でも自信がないの!好かれてるって…
私の方がいっぱい好きだし。」

いじける尋ちゃんに

「そんな事はない!…オレも……。
……今までは…どうしても、教師としてのオレがいるから…千尋一人を特別には
できなかったけど…。
生徒だと分かってても…自分の彼女にしたかったくらい…」

「うん、分かってる。ごめんね。
彼氏としての和くんも好きだけど、元々"先生"を好きになったんだもん!
でもね、こんなラブラブな二人を見てたら…羨ましんだぁ‼
和くんも思うでしょ‼高校生だってもっと生々しいよ!純愛じゃん!」

えぇっ‼ラブラブ‼

「尋ちゃん、そんなことないよ?
むしろ、尋ちゃん達の方がラブラブ過ぎて…目のやり場に困っちゃたもん。」

唯の言葉に「すみません。」って謝る和也さん。

あっ…そんなつもりじゃなかったのに…。

「ラブラブだよ‼
さっきも車の中から見えたもん。先生がお姉ちゃんの頭を撫でてる姿。
それに今だって、先生ってば堂々とお姉ちゃんのこと"好き"だって言ってるし。
さっきご飯の用意をしてる時も、二人仲良く新婚さんみたいだったんだよ!」

からかう尋ちゃんに…つい‼

「でもね、今でこそ優しいけど…初めは凄く怖かったんだよ‼
…まぁ~今でもたまに?怖いけど。」って言ったら

唯の顔を見た先生が…ニッコリ笑った。

………まずい‼………

「まぁ~ねぇ~。
先生をしている唯ちゃんは、色々と大変だからねぇ~
尋ちゃん!聞きたい⁉」って意地悪な顔で笑ってる。

「うん!聞きたい‼」

素直な尋ちゃんのリクエストに答えて、それからは唯の失敗談。

「えぇっ‼自分が降りる所を忘れるって…ダメじゃん。」

ケラケラ笑う三人は、ホントに楽しそう。

「僕も新人の時は色々やりましたから。」

同じ教師の和也さんのフォローも

「高校の授業をミスるのと、鬼ごっこをミスるのは違うよ~」

ふ~んだ!先生の意地悪。

チラッと横目で見たら"何?"って目で返された。

少し酔ったのか…先生の目が大人に見えてドキドキしちゃう。

恥ずかしくて俯いたら

「ねぇ~和くん見た⁉
先生見て赤くなったよ‼」

苦笑いの先生に

「こらっ、千尋‼もう、すみません。」って謝る和也さん。

尋ちゃんの言いなりになってるように見えるけど…やっぱり先生なんだ。

学校での二人はどうだったんだろうなぁ








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