ちょう


私も読書でもしようか、とお気に入りに登録してあるページを開くと、一つのサイトをクリックした。少し前から漁るようになったのは、携帯小説のサイトだ。ここには物語という『本当』しかないから、安心できる。


物語は虚構だ、嘘の世界だ、という人がいるという。私だって、考えようによって確かにそれは一つの意見だとは思う。


だって、現実ではありえないことが多いし、現実はこんな風に簡単にうまくいかない。まあ、言ってしまえば私だってある意味物語の人物のような存在だけれど。


でも、嘘の世界だというのは、私の今生きている現実を基準にして取っているからに過ぎない。物語の登場人物からしたら、私たちが今生きている現実なんて存在していないのだから。


物語の登場人物たちにとっての本当の世界というのは、それぞれの物語の世界それ自体。だから彼らの世界に嘘なんて言うものは存在していなくて、いつだって真実の中を彼らは生きている。


私には、それが羨ましい。


私の周りには嘘しかないから。本当なんて存在しないから。


そういう私自身、嘘で塗り固めた人生だけれど。────だから。


綺麗なものは、嫌い。自分が汚いことが、はっきり分かってしまうから。


脳裏を過ぎったモルフォチョウの鮮やかな青を打ち消して、しおりを挟んでいた作品を開く。私には到底書けないような文章たちが、私を文字の海に引きずり込んでくれる。


この瞬間は、好き。好きなものに埋もれて、息なんて止まってしまえばいいと思うほど。


そんなこと願ったって無駄なことだけれど。嗚呼、さっきから無駄な事考えてばかりだ。


作家というものは、凄いと思う。迸る文章を文字に起して、こうして何人もの人物の人生録を作ってしまうのだから。登場人物を理解して、ちゃんとその人その人と向き合っているのだろうか。


少しだけ、話がしてみたいと思った。


ネット越しなら、大丈夫。本心が見えなければ、嘘を吐かれていたって分からない。私が嫌いなのは、一致していない口に出された言葉とその本心だ。


その名前を、青い鳥のアプリで検索したのは出来心。……最初だけ。


ちょっと探して諦めて、作品を読み進めて、嗚呼凄いと思ってまた検索をかけて、そこから先は半ば執念だ。


伊達にネットに入り浸っているわけではない。それなりに一般人よりも詳しい自信はある。SNSはやっていると言っていたから、絶対にあるはずだ。


そうして漸く探し当てたアカウントに、メッセージを送って。返信を待つ間、作品を読み進めていると、返事が来たことに気付いたのはひと作品読み終わった後だった。


時間からして、割と早く返事をくれていたみたいだけれど、全然気付いていなかった。それだけ読むのに没頭していたらしい。


だって、綺麗なだけじゃないんだもの。


< 3 / 7 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop