想いはシャンパンの泡とともに










「すみません、お隣いいですか?」


そう声をかけられたのは、ホテルのスカイラウンジでやけ酒をあおっている時だった。


クリスマスイヴの高級ホテルのスカイラウンジなんて、カップルの為の場所なのに。オシャレした女が一人で飲む姿なんて異質で悪目立ちしているのは明白。

ガラス張りに夜景が見えるカウンターで、ぼんやりとカクテルを飲んでいると。穏やかな声が聞こえてハッと顔を上げた。

肩越しに振り返ると、ダークグレイのスーツを身につけた長身の男性がすぐそばに立ってる。ふわりとした栗色の髪を自然にセットし、整った顔立ちのなかに収まるやや薄い茶色い瞳がこちらをまっすぐに見てた。


(聡?ううん違う……でも似てる?)


ドキン、と心臓が跳ねたのはどうしてだろう? その色になぜか切なさと懐かしさを感じて、思わず胸元に手をやりながら慌てて答えた。


「ど、どうぞ……」


心持ち体をずらしながら、男性が隣に座るのを待つ。彼が「グリーンアラスカで」と告げると、バーテンダーは手慣れた様子でカクテルを作り始めた。


なぜ、だろう?


恋人にフラれたばかりなのに、隣に見知らぬ男性がいても平気なんて。ふわりと仄かに香るジャスミン系のパフュームに懐かしさを感じながら、グラスに口をつけた。


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