君のまなざし
絵里子さんを見ると首をかしげて困った顔をしていた。

「まさか、お姉さんは魔性の女?」
うわぁ、凄い展開!などと盛りあがる女性グループ。
もはやため息しか出ない俺。

「あのー」

絵里子さんがやっと口を開く。

「さっきからみなさんで盛り上がっているところ申し訳ないんですけど。私には意味がわからなくて」
本当に困った顔をしている。

「一緒に行ってあっちに1週間滞在するし、淋しがるのはその後じゃダメなのかしら?」

ん?一緒に行って?1週間滞在?ん?ん?
「は?」
「先週、電話で言ったわよね」

えーっと。確か電話では『お休みがとれたから一緒に空港に行ける』じゃなかったかな?

「あ、あれって」
「だから、一緒の飛行機も取れたから、一緒に行くの。3日間は有給休暇で残りは笹森のアメリカ支社に出社するけど」

「空港って見送りじゃなくて?」
「乗るのよ。一緒に」
ええー!き、聞いてない。聞いてないよ!

「だって、話してる途中であなたのスマホのバッテリー切れちゃうし。とにかく私は一緒に行くって言ったし、詳しい話は今日会うからいいかなって。」

にっこり笑う絵里子さん。
俺も女性グループも驚きでポカーンとしている。

「すごっ。これってやっぱり魔性の女?小悪魔?何ていうの?何?このテクニック」
「さすがイケメンお姉さん」
「愛よねぇ」
「彼氏さん、愛されててよかったですね」

いや、照れる。
愛されてる?ははっと笑ってみせるけど、内心バクバクと心臓の鼓動が激しい。

お邪魔しました-、お幸せにーと女性グループは奥のテーブル席に移動していったが、俺は落ち着くことなんて出来るはずもない。

「今の話は冗談とか?」
恐る恐る聞いてみる。

「本気ですけど」 
軽く顎を突き出してそれが何か?って顔をして「じゃ、やめようかなー」
なんて意地悪を言い出す。

「ごめんなさい。ごめんなさい。やめないで下さい。一緒に来て下さい」
両手をテーブルにつき頭を下げる。

ぷぷっと笑い声が聞こえて顔を上げると「やめないわよ」といたずらっ子のようなかわいい笑顔を浮かべた絵里子さんと目が合った。

こうして、またあなたの虜になる。
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