甘々なボスに、とろけそうです。


 ◇


「美味しいねぇ。さすが、このビルに入るだけあるよ。そう思わない?」


「……あまり、そういうのはわかりません」


やってきたのは、コーヒー専門店。注文したコーヒーがテーブルに運ばれてくる前から、店内にとても良い香りが漂ってくる。

味は、ブラックなのに飲みやすいような気がする。が、缶コーヒーとの違いを説明できるほど、私はコーヒーに詳しくはない。


「まだまだ子供だね」


目の前にいるのは、コーヒー片手にそんな嫌味を言ってもなお、絵になる色男。


――なぜ、こんなことに。


兄に、かくかくしかじかと、事情を手短に話したところ、『今日はもう、ゆっくりしておいでよ』と言われ。

そばにいた新條さんが――どこまで聞いていたかわかったものじゃないが、『だったら僕とコーヒーでも』なんて爽やかに言うもだから、兄は『妹のこと、よろしくお願いします』と、私を新條さんに託して行ってしまい。

新條さんと2人でコーヒーを飲むという展開になった。


「君、猫垣くんの妹だったんだ」


この人、兄と顔見知りだったのか。同じビルに勤めていても、階も違えば職種だって異なるのに、知り合う機会があるのかな。それこそエレベーターで乗り合わせるくらいしか、私には想像できない。

大学では、食堂や講義で見かけて顔は知っていても、必修クラスやサークルが同じだとか、友達の友達……などという繋がりがなければ、特別話したりはしないが。

< 103 / 194 >

この作品をシェア

pagetop