私の家は52F!?〜イケメン達と秘密のシェアハウス〜
姿を現したのは、ゼブラ柄のコートに銀色のストールを巻き、真っ黒のズボンを履いた男。
そして、おまけにLouis Vuittonのサングラスをかけている。
関わりあいたくない恰好NO1だ。
「あずさちゃんいる?」
名指しで刺され、彼と話をしたい女性スタッフが嬉しそうにあずさのいる方向を指さす。
人が家を無くして困っている時に、本当にやめてほしい。
「……」
「あーずーさーちゃーん。無視?無視はよくないよね?俺客だよー?」
「日下部さん、昨日火事で家を無くしちゃって、落ち込んでいるんですよ」
女性スタッフの山中さん(推定25歳)があずさに遠慮する気もなく彼に伝える。
「え、そうなの?」
「源之助さん。今日もキャラメルマキアートですね。ご利用ありがとうございます」
余計なことを言われる前に、あずさは営業スマイルでGENと呼ばれる男にコーヒーを差し出す。
「あずさちゃん、GENって呼んでよ」
「なんですか?松平 源之助さん?」
松平 源之助(まつだいら げんのすけ)。
B.C. square TOKYOの不動産を管理している松平財閥の次期総帥と呼ばれる男。
恵まれた容姿からモデルの仕事も時々しているらしい。
本来だったら雲の上の世界に住んでいる人。
いつの日だったか忘れたが、淹れたコーヒーが美味しかったとかで付きまとわれるようになった。
必ず忙しいピークを抜けた後に来る。
どこに住んでいるのかは知らないが、毎日暇な男だ。
「火事で家を失ったので、ほっといてください」
余計なことを言うなよと思いつつ、あずさは素っ気なく源之助に言い放つ。
優しくしてるとこういうタイプはつけあがるんだから。
この世の中が全て自分のためにあると思っているタイプには、思うようにいかないこともあるということをしっかりと伝えていかなくてはならない。
「家失ったってことは、あずさちゃん、今どこに住んでるの?」
漫画喫茶に泊まったとは言えず、言葉に詰まる。
「さっき、日下部さん漫画喫茶に泊まったって言ってませんでした?」
空気が読めない。いや、読むつもりもない山中さんがきょとんとした表情で言う。
「漫画喫茶?あぶな!」
「……うるさいなぁ」
誰にも聞こえない程度の声でボソリと呟く。
遊び半分で、人の人生のネタを楽しんでるんじゃないよ。
ぶつぶつ文句を言いながら、次のピークに向けて準備をしていると源之助が平然とあり得ない言葉を放った。
「だったら、俺の家に来ればいいよ」
「いや、何を言ってるんですか?住みませんよ」
そんな財閥のお坊ちゃまの住んでいるような世界に一般家庭で育った自分が入れるはずがないと、あずさは全力で否定する。
「なんで?」
「なんで?じゃないですよ。身分が違います」
「大丈夫だよ。家から離れて住んでるから、俺。結婚生活の予行演習だと思って」
あ、身分が違うってところは否定しないのね。
「お断りいたします」
「遠慮することないんだよ。じゃあ、夕方迎えに来るから。あずさちゃん、シフト夕方までだったよね?」
ニッコリと笑って、源之助は足早に去っていく。
なぜ、人の勤務時間を把握しているのだろうか。
「なんなの、あの人……」
全く話を聞かない源之助に、あずさは「はあー」と大きなため息をついた。
「愛されてるねえ」
中村がニコニコしながら、あずさに言う。
「羨ましいですね」
山中さんもニコニコしながら言う。
「お二人とも、完全に楽しんでません?」
「「いいや、全然?」」
確実に楽しんでるでしょ!