男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました

急に胸の中にピンクのバラが咲き乱れ、慌てて心の剣でそのバラを薙ぎ払った。

大公殿下ともあろうお方が、こんな非常識な伯爵令嬢を見初めるわけがないでしょう。

今の言葉には、別の意味があるはずだ。

今日は色々なことに疲れて頭が回らないから、それが分からないだけなんだ。


そう考えて正気を保とうとするけれど、殿下は私を抱きしめる腕を離してくれないし、耳元でまた囁かれて、散らしたバラの花園が、簡単に復活してしまう。


「こうして抱きしめると、体の柔らかさがよく分かる。なよやかな女の体で、今日はよく戦い抜いたな……」


頬をくすぐる銀色の髪、耳に当たる温かい吐息、私の力では解けない逞しい腕と、芳しいバラの香り。

頭がのぼせたようにぼんやりして、息苦しさを感じていた。

もうダメだ……。

このままでは、ピンクのバラに埋もれて、窒息してしまう……。


これまで恋愛というものを経験してこなかった私は、急な展開について行けず、ドアに向けて助けを呼んだ。


「クロードさん、助けて下さい!」


すぐにドアが開いて、廊下で人払いをしていたクロードさんが飛び込んでくる。


「どうしまし……アミル!? なにやってんだよ!」


やっと私を解放してくれた殿下は、不服そうな顔をしながらも、大人しくクロードさんに叱られている。

私は後ずさろうとしてよろけて、絨毯の上に尻餅をついた。

女だとバレてもお咎めがなかったのは喜ばしいことだけど、これから私はどうなってしまうのか……。

胸に手を当て、速すぎる鼓動を鎮めようとしながら、明日からの生活を心配していた。



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