男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました

「すみません、もう一本お願いします!」


気持ちを乱したことを謝って、木刀を握り直し、私はジェフロアさんに斬りかかっていく。

上から斬りつけ、下から振り上げ、横から薙ぎ払い……私の猛攻を余裕の笑みで受け止めるジェフロアさんだったが、急に待ったをかけて、左を見た。

つられて私も同じ方を見ると、コスモスの花畑を抜けて、こっちに歩いてくる大公殿下の姿を見てしまった。

途端に心臓が大きく跳ねて、強い緊張に襲われる。


襟と袖口に金刺繍を施した藍色の上着に、黒のズボンとブーツ。

黒い棒タイを締めて銀色の髪を揺らし、いつもと変わらぬ凛々しいお姿だが……その顔は不機嫌そうにしかめられていた。


マズイと焦る私の手から木刀が滑り落ち、無意識に足を一歩、後ろに引いていた。

殿下が不機嫌な理由に、心当たりがあるためだ。


舞踏会後の三日間、私は可能な限り、殿下を避け続けていた。

朝晩の食事は共にと言われているのに、体調がすぐれないと嘘をついて、自室でひとりで食べている。

そのくせ、午餐は殿下が一緒じゃないからと、リリィとふたりで食べていた。

授業以外は殿下の護衛の任務に当たらなければならないけど、その時間も減らしていた。

補習と偽って、遅くまで授業部屋から出ないようにしていたのだ。

昨日は少しも顔を合わせずに過ごしたし、そろそろ怒られそうな気はしていたけれど……。


< 222 / 355 >

この作品をシェア

pagetop