男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
「ということで、ラテン語の授業だけは自習時間に当てたほうがいいって言われたんだ」
「そうでしたか。先生よりラテン語がお上手とは、素晴らしいですね」
ジャコブは見直したといった顔をして頷いてから、バケツと雑巾を手にドアへと歩き出す。
「お邪魔になりますので、掃除は後ほど」と言って、サッサと出て行こうとしていた。
どうやら彼は、教師に言われた通りに私がこれから自習すると思って、気を利かせてくれたみたい。
しかし、それは間違いというものだ。
せっかく自由になれた貴重な時間なのに、のん気に勉強なんてするはずないでしょう。
ベッドから立ち上がってドアに駆け寄り、廊下に片足を踏み出しているジャコブの腕を引っ張って室内に連れ戻す。
バケツの水がこぼれそうになって慌てている彼に、私は笑顔である提案をした。
「ねぇジャコブ。これから街に遊びに行こうと思うんだけど、付いて来てくれない?」
「街!? ステファン様、なにを言っておいでですか。あなたはここでお勉強しなければならないはずです」
「そんなの言われなくても分かってるよ。でもちょっとだけ。午餐の鐘が鳴るまででいいから。ね?」
この屋敷の中の立ち入り可能な場所は、ザッと探検済み。
豪華絢爛な造りを見慣れてしまえば、特に面白いものは見つけられなくて、興味は早くも城下街へと向いていた。