M.A.S.K.
第一章

朝一番

低血圧気味の私はある朝、
いつも通り母親の声と携帯で強制的に眼を開けさせられ、重い体を持ち上げて、しぶしぶと洗面所へと向かった。

朝起きて顔を洗った後は、リビングの隣にある、ピアノの置いてある部屋へ向かうのが私の日常だ。
ひんやりとした桃色の水分を、コットンにたっぷりと含ませ、ゆっくりと顔をふき取る。
夜の間にまとわりついた空気中の汚れを、これで少し拭き落とせたような快感。
その後、透明な液体を五百円玉分だけ手に取り、顔にぺたぺたとなじませる。心までが潤うような、心地よさだ。すっきりする。
そして。
少し乱れた髪の毛にスプレーを吹いた後。朝一番の大仕事。私が一日の中で、一番好きな仕事が。
私の顔に、薄くて違和感の全くない仮面(マスク)をのせる作業だ。

それは、化粧。

化粧なしに、外を出歩くということ。そんな簡単なことが出来なくなったのは、いつからだろうか。
こう言ってしまうと、お前どんだけケバいんだよ、と皆思うだろう。が、そんな事は全くない。むしろ私の場合は薄化粧もいいところである。


眉毛を整え顔の全体のバランスを、合わせ鏡でチェックする。どちらかというと細い眉毛よりは太目の方が好きなのだが、存外そのバランスが難しいのだ。
けれどその分上手くいったときには、それだけでその一日がいい日になるような爽快ささえ感じる。
その後は、マスカラ。
友人に唯一褒められる私の長所が、私の睫毛の長さなのだから、それを損なわぬよう、丁寧に丁寧に塗る。
(個人的にビューラーは好きでないので、私は使っていない。その分まつげパーマを半年に一度ほどさせてもらうよう親に頼んでいる)
くるん、と綺麗にカールした睫毛を少しずつ伸ばして太くしていく、その快感と違和感。自分の顔が、自分でなくなるような。それこそが私の望みであるというのに、やはりまだ少しだけ慣れない。
そして、リップクリームを口にのせる。私はあまり自分の唇の色は好きでないので、発色の強いシャネルのリップグロスをいつもその後につける。

朝のブスな顔が見違えるほどに、見られる顔が出来上がった。
毎朝、この満足を感受する瞬間はなんともいえないほど気持ちいい。
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