目を閉じてください


この前は必死すぎて何も見る余裕がなかった。


改めてキョロキョロする。
天井からフロアの壁、床まで。
すごい。


天井には奥と手前にふたつのシャンデリア。
小さな心花柄をさりげなく模した一面の白い壁。


右手のカウンターにはキャビンアテンダントさながらの受付嬢がふたり。


いかにも海外から出張で来日した客を、何ヶ国語かを器用に使い分けて丁寧にもてなす美女。


大変だ。


左手には胡蝶蘭。
やはり衝立状の壁の裏に何機かのエレベータースペースがあるようだ。


あれはまた別の階専用らしい。
私には関係ないことだ。


正面のエレベーターに向かう。
接客中のこの前の1人と去り際に目が合ったけれど、さすがにもう止められることもないようだ。


壁にセンサーがあった。やっぱりタッチパネル方式だ。
簡単には部外者を中まで入れないためのセキュリティのひとつだろう。


上行きのボタンを押す。


「あっ、そうだった。ATM行かなきゃ」


結局手持ちがないままだったことを思い出す。


< 33 / 124 >

この作品をシェア

pagetop