目を閉じてください


電動歯ブラシで、ひと通り磨き終えた。


「……彼はもう、日本にはいない。先月完成した海外の姉妹ビルにいる。移住してオーナーとして経営してもらう。もうここに来ることもないでしょう。君は君で素敵な未来を見つけなさい」


「わかっています。ご心配なく」


「チップを取っておきなさい。手切れ金です」


「はい!?」


分厚い封筒をそっと渡された。
聞いたことしかないけれど、帯札というやつだろう。


「キスされたどうのと後で文句を言わないでもらいたいのでね」


カッと頭に血が上る。
一瞬でもイケメンだと思った自分が腹立たしい。


「………バカにしないでください」


きょとんとする。
パン!!と差し出した封筒を弾き叩くと、


「庶民を馬鹿にするのも大概にしてください。こんなもの頂かなくても結構です。犬に噛まれたようなものですから」


「いぬ…」


「ご利用、有り難うございました」


一応お辞儀し、乱暴にカーテンを開けると閉めて、足早に立ち去った。


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