不審メールが繋げた想い
ブー…。あ、……来、た、じゃない…。わ、わ、わ。

【件名:返信をくれて有難うございます】

【件名:危ないメールではありません】

【件名:信じて内容を見て貰えますか?】

パッと見、開けずに見られる文字。
件名に入れられる文字の限界ってあるのかしら…。私はこういった物にあまり詳しくないからよく解らないけど。危ないメールではありませんとか、見て貰えますかとか、言葉を一々取り上げて考えてしまうと、信じるって本当難しい…。知らない相手を信じるって…。
どうしようか…。

…うん。…よし。決めた。今更よ。こっちから連絡したんだし、とにかく見てみよう。あー、でも…ドキドキする。…大袈裟?…開けた。
結果、何度も読み返すことになった。

【間違って送った訳ではないです。信じて貰える事が大前提です。何度もメールを送り続けて恐い思いをさせてすみません。
私はYです。貴女は会員登録をしてくれている〇ーちゃんさんですよね?
映画の試写会に来てくれて嬉しかったです。初めてですよね?お会いしたのは】

不思議と冷静だった。
私はYです、この言葉を目にしても動揺はなかった。…Yですってって……。恐くなかったけど、冷めていた。Yなんて…と、どこかで思っていた。何、これって。
ここまで読んで、何かで情報を知った、なりすましとも思えた。実は身近な人のいたずらとか。
信じて欲しいと言われようと、Y本人だと言う確証は何もない。
問題はこの続きから。

【いきなりお願いがありますと送ってしまったから、不審なメールになってしまったのですよね。だから全く見て貰えなかった】

その通りですが…。というか、まず、知らないアドレスからのメールですから。見ませんよね。

【もの凄く不躾で唐突な話なんですが、出来ればメールでなんて言いたくない事なのです。会って顔を合わせてでないと話す事も私自身も信じてもらえないからです。だから、会って欲しいとお願いしました】

もう、ここから解らない話だ。大問題よ。
私に話?しかも、会って話したいようなニュアンス…。あのYさんがよ?!…信じられるはずもない。
もう可笑しいじゃない。芸能人が私に話って。…有り得ない。絶対有り得ない。それも、都合よくその相手が私の好きなYさんだと名乗っている。変よ。出来すぎてるって。

【貴女の住んでいるところとは、かなり離れています】

確かに。ここは地方ですから。

【再来週から来年放送予定のドラマの撮影が始まります】

え、そうなんだ。まだ最新情報として掲載はなかったな…。会員登録はまだ削除していない。何だかすっかり忘れていた。あ、駄目駄目。嘘かも知れないんだ…。んー、これも自分がYだと信じさせたいが為の情報提供なのかも…。事実なら、いいの?まだ発表前の物を私に教えても。…可笑しいでしょ。

【スケジュールの合間を縫ってそちらに行きます】

…は?…嘘。こっちに来る、ですって?何言ってるの…。どこに…。

【平日はお仕事、されていますよね?】

確かに。社会人ですから。

【こちらの都合に合わせて貰って申し訳ないのですが、マネージャーを迎えに行かせます。
夜なら何曜日でも大丈夫ですよね?
どうか不審がらずに、迎えの車に乗って来て欲しいのです。車のナンバーは、わナンバーになります。レンタカーです。ナンバーは解ってからまた知らせます。迎えに行く男性は、私のマネージャーで各務(かがみ)と言います】

ちょっと……とんとん拍子過ぎやしませんか…。こんな…具体的に決めて…。強引過ぎない?しかも、私にはどの日も用がないって…決めつけて。ちょっとそれ失礼じゃない?……迎えの車に乗れって?マネージャー?各務?…はぁあ?…まるでドラマじゃない…。嘘だ、嘘、嘘、本当、出来すぎてる。信じられないこんなこと。

【男性マネージャーですが危険はありません。(注)女性に興味はないので】

あ…、は、あ。え?いやいや。どういう意味…。(注)って…なに。興味とか、好き嫌いは別として、男性なら単純に、腕力とか強いでしょ。暴力でもされたら敵わないじゃない…。女性に興味がないは、完全な危険回避の理由にはなってないと思いますが。

【自宅にお伺いするのは流石に止めておいた方がいいと思うので、公共の安全な場所、JRの〇〇駅でという事でお願いできますか?】

……本当に話は一方的にドンドン決められてるのね?…。いくらなんでも。
…自宅といえば、…知っているという事だろうか。……えー……。あ、知らなくても、それなら聞けばいいってことかしら…。よく解んない…。

【また前日なりご連絡を入れます。偽物とか、なりすましとかそういった類いではありません。信じてください。私は本当にYです。このアドレスは私個人の物です。いつでも連絡をして頂いて結構です。仕事上、すぐ返せない時もありますが。あと、私はあまりこういった物が得意ではありません】

あ、なんか最後の…、聞いた事あるな。確かに、メールとかあまり好きじゃないって話をしていた。…上手く信用出来そうな話を入れて締めたなあ…。
あ、また来た。

【件名:すみませんでした】

【勝手に貴女のアドレスを取得して、こうして利用してしまってすみませんでした。Y】

…んー、これって…ね。どうなのよって、話でしょ?……。
…長いメールだった…。
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