不審メールが繋げた想い
…ふぅ。
お風呂上がり、携帯が着信を知らせていた。

【こんばんは。会うまでに何か少しでも話せたらと思って。だけど、何を話したらいいのか、特に浮かばなくて、変だね、こんなメール】

あ。フッ……本当に。らしいと言えばらしいかな。本人の何を知っているって訳じゃないけど、本当にこのメールがYさんなら、イメージ通りの事を言うなと思った。見てくれて有難うってことはないのかなって。散々送り付けておいて…もう解決したから忘れちゃったのかな。…フ。おっとりしている感じがそのまま現れているような。普段は寡黙らしいと聞くけど。…はぁ…会う事、前提になってる。そうだよね、行かないって、はっきり断ってないんだから。
返信…どうしようかな…。この場合、しなくてもいいのかな。もう、無視はしちゃ駄目なのかな…。何にしてもまだ半信半疑って事だ。

【お仕事はもう終わられているのですか?それとも撮影の合間、休憩中とかでしょうか。
私は日々変わらない生活パターンなので、今、お風呂上がりなんです】

それでも送ってみた。もう、この人が本人でも違っていても構わないかな。…投げやり?何となくだけど、メールを返したくなった。きっと、自分の中の無意識の部分。
ちょっとこのメールが嬉しかったり、…日々の寂しさだったり。普段何も無い私の中にも…色々あるにはあるんだと、妙なワクワクした感情。不信でも楽しんでいる、そう思ったのかもしれない。客観的に自分の事をそう思った。

ブー、…。

【今、やっと遅い食事に来ています。勿論、スタッフ数人とですよ】

…ん?別にプライベートだろうと仕事だろうと、誰とだろうと構わないのですけど?
私に言い訳みたいなモノは要らないのに。
…何を食べているんだろうなぁ。本当にYさんなら、お忍びみたいに、個室とか?用意されてるところで、美味しいもの食べてるんだろうなぁ…。

【そうなんですね。寛がれているところをお邪魔致しました。おやすみなさい】

これくらいでいいかな。長くやり取りというのも…。それに、食事中らしいし。

ブー、あ、また来た。どうなってるの…?らしくないように思えた。

【お邪魔なんかでは無い。こうしてメールしてくれた事が凄く嬉しい】

…あら?これは…なんとも…。こういう事、言える人なんだ。
もう、おやすみなさいって送ったんですけど。
ああ、お酒が入っているのかも知れないな。…はぁ。…どうしようかな。

【深夜ですから、飲み過ぎ食べ過ぎにはお気をつけください。翌日に残らない程度に】

大きなお世話だ。好きに飲食してるところに水を差すようなこと…。
……はぁ。まあ、いいかな。不確かな相手だと思えば、お節介な事も平気で言えてしまいそう。確か本人は酒豪みたいだけど…。

【有難う。気をつけるよ。では、おやすみ】

あ、何て言うか、…何ですか?別にいいんですよ?好きにしていただいて。今更ですが、このやり取り…。何だかやっぱりYさんかもと思うと不思議過ぎる。あり得ない事をしてるんだもの。

フ。……この携帯はどこに繋がっているんだろう。不思議すぎて…どこか、異空間でやり取りしてる気分になる。まさに上手く作られたフィクションよ、これって。…巧妙ななりすましかもしれないのに。
Yさんとメールなんて…現実だとはとても思えない。…ふぅぅ。有り得ないわ、本当。有り得ない…。
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