不審メールが繋げた想い
・言わないと伝わらない事

休日の事だった。

ピンポン。

「叶さ〜ん、お届け物です」

は?何だろう。通販も何も、注文したものは無い。それ以外にお届け物なんて…。心当たりがないんだけど。

「はい?」

ドアを開けると、配達員が小さい箱を手に立っていた。

「あ、えっと…、叶さんですね?受け取りのサインか捺印、ここに…お願いします」

もう、胸ポケットからボールペンを抜き、カチッと言わせていた。

「これ、良かったら使ってください」

玄関先に置いてある判子は直ぐそこにある。手を伸ばして取ろうと思ったけど、折角なので借りてサインした。

「はい…、ご苦労様です」

「あ、有難うございます」

荷物を渡し送り状の伝票を受け取ると、帽子のつばを軽く摘んでそう言い、駆け足で帰って行った。
割と小さな箱だった。そう重くも無い。思わず振ってしまいそうになった。ぁ、駄目駄目。…えっと?送り主は…私、……私?…え?何だろう…。受け取って良かったのかな…。
RRRR…。部屋で携帯が鳴った。慌てて戻った。

はい、はい。あ、各務さんだ。

「はい、叶です」

「あーこんにちは。そろそろ荷物が届く頃かと思いまして」

荷物?もしかしてこれ?送り状、よく見たら時間指定になっていた。

「あ、これは各務さんだったのですか?今、荷物が…」

「あー、すみません、ご連絡が後になったようですね。本人が本人宛みたいに、出させて頂いたものですから。心当たりの無い不審物だと思われて、受け取って頂けなかったら困ると思ったのですが。もう届いているのですね?」

「はい、今受け取ったところです。そそっかしいから…配送の人が帰ってから、送り主が自分になってるって、後で気がついて。あの、この間は、色々と何から何までお世話になって、ご迷惑もお掛けしてしまって…」

「いいえ、私は何も。お気遣いなく。それ、この間の珈琲の保温容器なんです」

あ、わざわざ。品名は雑貨になっていた。

「そんなの…、良かったのに。処分して頂いても良かったんですよ、ごめんなさい、こんな…わざわざ有難うございます」

「いいえ。使い捨ての物ではありませんから。私の勝手には出来ません。あ、すみません、ちょっと呼ばれているようなので、これで失礼します」

「あ、はい。有難うございました」

はぁ…遠いって事は…迷惑かけてばっかりだ…。何もかも…、迷惑ばかり掛けてしまってる。

箱を開けた。入っていたのは保温ボトルだけではなかった。そんな気はしていた。ドリップ珈琲とお菓子のセットも入っていた。そしてメモ…。

『温かい珈琲に助けられました。有難うございました。各務』

もう…各務さんという人は。はぁ…、よく考えたら、これを飲む為には車を停めなければいけない。ストローを差している冷たい飲み物の容器とは違う。飲み口があったとしても熱くてダイレクトには飲めもしない…。だったらサービスエリアに寄れる。サービスエリアには好みの飲み物が選り取り見取りある。缶でもコップでも、直ぐ飲める状態で車のホルダーに置ける。
これは…私のした事は、一人で車の運転をする人には逆に面倒臭いだけだった。はぁ…、もう、本当に…何してるんだろうか。つくづく気が利かない…。こうして送ってもらったりして…却って気を遣わせてしまっただけだ。………あ。サービスエリア…。なんで気がつかなかったのだろう。サービスエリアといえば…車を停めて仮眠する事もできる。強引に引き留める必要はなかった。…自分のタイミングで休めるんだ。私ったら…思い込んで、頑なに…随分強引な事をしてしまったようだ。
各務さんは気持ちを汲んでくれたんだ。私が頑なに粘ったから。…はぁ、何だか申し訳ない事ばかりだ…。
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