不審メールが繋げた想い

あ…。そんな…、私はどうしたら…。

【肝臓と大腸のガンでした。告別式は密葬という事で身内のみで済ませました】

…真さんのお母さんが亡くなった……そんな…いつの事だろう…。

【詩織さんからのプレゼントの膝掛けは、大変喜ばれていて、いつも車椅子に乗る時、お使いになられてましたよ。各務】

…そんな事…、真さんは何も知らせてくれなかったのに…。あ、違う。…それどころでは無かったんだ…。愛想の良くない別れ方だったのに。でも、渡してくれたんだ。もし、お母さんの事、亡くなる前に知らされていたら…私は思わず真実を伝えてしまっていたかもしれない。実は嘘だと…言ってしまったかも知れない…。

【私は、お別れをしに行く事は出来ないのですよね】

…。

【私からは、何と言って良いのか。暫くしてからでしたら私から伺えるかも知れませんが】

そうよね。親族の気持ちがあるから。今は心の中で冥福を祈るしかないのかな。…お母さん。嘘をついて、騙してしまってごめんなさい。

【詩織さんの結婚式の写真はお母さんの部屋に飾られていました。貴女はちゃんと橘家の人になっていたのですよ】

…あぁ、…。返す言葉が無い。…なんて事。ずっと見てくれていたのかな。そして、いつかは一緒に暮らすかも知れないと、思って待ってくれていたのかも知れない。
…なんて事をしてしまったんだろう…。だったら最後まで、表向き、住み込みの家政婦でも装って、あの家に居たら良かった。でもそれも何かおかしな事にさせてしまうのか…。
…今となってはどうする事も出来ない。私は…嘘から解放される事ばかりを望んでいた。自分が辛いばっかりに。

【詩織さん?大物俳優、極秘挙式という見出しの週刊誌が出たのですが、見ましたか?】

…え?…何。見たけど。

【12月25日、クリスマスウェディングという記事です】

…それが何?

【知ってます。偶然見ました】

静かに確実に…何かが押し寄せて来ている気がした。

【あれは、真です】

…あ、そう…だったんだ…。私との前にって事だ。しかもクリスマスに…。

【そうですか】

でも、…私には関係無い事です、よね。それが真さんで、本当の挙式だって…相手が誰だって……ショックなんて…無いはず、なんだ。Yさんは私の中ではテレビの中の人なんだから…。私はただの一、ファンに過ぎないのだから。

【詩織さん。腕時計を取りに行きます。明け方近くになると思いますが、開けて貰えますか?】

返事はしないままだった。
だけど、各務さんは来た。
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