不審メールが繋げた想い
預かったままの各務さんの腕時計は〇W〇のクロノグラフ。困らないというくらいだから、他にも所有しているのだろう。男性にとって腕時計はビジネスシーンに欠かせない物だと思う。併せて足元も目の行く場所でもある。腕時計とか靴とか、好きなのかな、どうだろう。この時計も素敵だ。
大切な人から貰った物なのかしら。だとしたら、かなり親密な関係の人にかな。自分で買った物かも知れないんだし、解らない解らない。色んな事に勝手な想像をするのは、誰と言わず止めておこう…。
…いい事なんて何も無いから。…あ。大切な人から貰った物なら、そもそも忘れたりするはずがないよ。各務さんだから余計それはない。
連絡を取らないといけないって事でも無いから、真さんにしろ、各務さんにしろ、特に何も来なくなった。式もした。もうすっかり落ち着いたという事かも知れない。指輪も返してしまったし、本当、終わったんだな。
何だったんだろう、この数ヶ月…。不審なメールから始まった私のドタバタな日々。何にでも疑心暗鬼する癖が付いてしまった気がする。
何もかも、Yさんから言われ、どこかいつも受け身で…、その都度、言われるまま行動して…、もう終わらせていいんだと思って…。あんな…逃げるようにして一方的に帰って来たんだけど、何も言って来ない。だから、終わった事には違いないって事なんだ。…それでいいって事なんだ。
今年の年頭に、ファンクラブからメールでHAPPY NEW YEARの文字と共に映画の挨拶の時の撮影された顔写真が送られて来た。どんなに知り合いになっていたとしても、これが事務所からファン宛に届けられる、分け隔ての無いモノだ。保存したいならダウンロードしなさいってね。思えば、まだ退会していなかったのよね。何だか色々あって、忘れていた…。昨年の内に退会しておくつもりだったのに。
一月からYさんのドラマは始まっていた。若い女優さん相手では無く、無理の無いキャストだと思った。私の願っていた物だった。中々、願い通りの配役になる事はまず無い。逆に何で?って思うような人が出演することばかりだ。
そんな時はYさんの事は観たくても、敢えて観ない。諸事情があっての配役なのだろうけど、イメージが違うと、つまらない、と思ってしまうからだ。
はぁ…、このドラマの役に入り込む為、努力をしていたという事だ。だってラブストーリーは苦手だっていう事だから。
話はまだ三分の一に過ぎない。まだ、これと言った苦手そうなシーンは無い。…まだ、軽い。
これからなのか、それともそういったシーンは無く、丁寧に内面だけを描いて行くのか。
…地下室で見たあの涙はこのドラマに関係していたのだろうか。多分、もうとうに撮り終わっているはずだ。
ブー、…。メール。…各務さんだ。
【ご連絡が遅くなりましたが、真のお母さんが亡くなりました】
え?