不審メールが繋げた想い

えー、…そんな事実、知ってしまって…。どうしよう…このハンパないドキドキ…。回されたままのこの腕。……どうしよう。各務さんは今、男だ。いや、会った時からずっと男性だった…。

「真は詩織さんの事、本気で好きなんですよ」

え?…この状態で真さんの話をするの?

「そ、それは無いのでは…」

話す事にただ動揺してしまう。いやいや、本気だなんて。本人も言わない事、そんな…。

「まだよく知らない相手。なのにあいつは…、器用じゃないから連絡は忠実にしないし、そんなところをあっさりしていると取るかも知れない。いや、場合によっては冷たいくらいに感じるかも知れない。説明もない、疑問ばかりだ」

「はい、連絡は中々無い事が多かったけど、それは恋人でも無いから必要無いと言えばそれで良かったかと。そう思えば、そうなんだと。それに、仕事が不規則でしょうし、都合も色々あるでしょうから。疲れていたらそんな…まめになんて。そもそも、振りをして欲しいという話でしたから…」

「振りだと言った、それが良くない」

「え?」

「あいつは元々不器用だし、恋愛表現も下手くそだ。だけど、詩織さんに対しては頑張っていたよ?
あいつが詩織さんに言った言葉をよく思い出してみて欲しい。本当に結婚するつもりで、ストレートに思いを伝えていたと思うんだ。だけど、先に、振りでも構わないと言ってしまったから、ずっと貴女が本気だと信じがたいだけなんです…」

そう言われても…中々。自分から違うだろうとしか思わないようにしていたところもあったし。受け入れてはいけない。だって、そう思わないと、最後には惨めになるから。
だけど……解る。…色々そうだったんだと、よく思い出して考えてみたら…、思い当たる気がする。真さんを信じて、言葉を信じて考えるなら、本当の結婚だとして信じられた言葉ばかりだった気がするけど。私に取っては、訳も解らず好きだと言われた事も、抱きしめられた事も、いきなり…強引なキスだって。なんでこんな事、そこまでするのって、いつも思った。…雰囲気を作る為だと思った。…そう思う事にしたんだ…。それが…演技ではなく、全部、本心からだったとしたら…。

「どうです?」

あ…でも、今はそれどころではない。それは各務さんに言われる事ではなく、真さん本人が改めて気持ちをちゃんと言ってくれないと…解らない。…あの日、式が終わった時。何か話そうとして、そして私は聞かずに帰った。話がそのことだったとしたら、もう…諦めて終わらせたのかも知れないし、今現在の気持ちは真さんにしか解らない。
今は、まず、この状況をどうしたらいいんだろ。事態は…非常に切迫している。

「本気だからこそ、お母さんに貴女を会わせておきたかったのです。もう、夜が明ける…。詩織さん」

「…は、い?え?」

はぁ…何を話し掛けられても、もうドキドキしてしまう。

「寝ましょう」

「え゙?!」

…ね、寝るって…どういう意味ですか?

「フ…。そんなに身構えないで…、大丈夫だから…」

え?寝ようとか、大丈夫とか、あー、同じ言葉ももう同じには取れなくなりましたよ?当たり前よね?女性が好きだってはっきり聞いてしまったんだから。寝ましょうなんて…。そんな。

「心配は要らない…」

ん゙ー、ん゙ー、…何の心配?…。解らない。

「一度一緒に寝て何もなかった仲なんだから、大丈夫。…理性はありましたから」

そうだけど、でしょうけど。ん゙ー、今も、その寝たと同じでって事?

「フ。まあ、いい。運べば済む事です」

スーツの上着を抜ぐと私は軽々と抱き上げられてしまった。

「えっ!あの、ちょ…」

どんどんベッドルームに向かってる。重いから…。あ、重いってことはとっくに解ってるんだった。…今、そんなことじゃない。


「ドア、開けてくれる?あー、いいですよ、私が、…何とか」

抱き直された。口調もちょっとだけフランクになって来てる?あ、…開けられちゃった。

「詩織さんが休みだって事、ちゃんと考えて今日来たんだから」

身体が弾んだ、また抱き直された。…計画的犯行?

「捲ってくれる?」

ベッドルームに入ってしまった…。この上言いなりに布団を捲ってしまったら、準備OKって事でベッドに下ろされるじゃない。そしたら…。

「あー、別に捲らなくても構わないよ?」

…はぁ。短い葛藤の末…結局捲ってしまった。下ろされた。また、なんの躊躇もせず服を脱ぐのかな。

「シャワー貸して?詩織さんは寝てていいから」

各務さんは浴室に行った。シャワーに行ったからって、はぁ、…気を抜いて安心なんかして居られない。先に眠ってしまう事も危険じゃないの?

跡を追うようにして部屋を出て、浴室の様子を窺った。
…うん、音がしている。無駄な抵抗かも知れない。だけど…。
クローゼットから予備の掛け布団を取り出し、ソファーに横になった。
もう完全に時間は朝だ。つまり、既に完徹状態。頭はボーッとしている。睡眠時間が短くていい私でも、就寝時間はとうの昔に過ぎていた。寝るつもりはなくても布団に包まってしまうと途端に睡魔に襲われた。
…あぁ、…まずいかも。でも…もう…寝ちゃうかも…駄、目だ…駄目、なのに…。

カチャ。

フッ。詩織さん…こんな事だろうと思いましたよ。

ぐっすりと寝てしまった私は、やはりベッドに運ばれていた。目が覚めたお昼頃には、各務さんの裸の胸に抱かれていた。
ピアスはいつの間にか外されていて、サイドテーブルの上に置かれていた。
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