不審メールが繋げた想い

各務さん…。裸だけど、…これはいつもの事ですよね?

「……詩織さん…。貴女が私に火を着けたのですよ?」

各務さんも起きていたんだ。目が覚めて…何も、身体に異常は無い。…え?今、何か言った…。

「…、え?…あ」

何て?…頭はまだ上手く回らない。間の抜けたような顔をしていたのだろう。優しい顔で頬に手を当てられた。

「火を着けられた、と言いました。貴女は勿論、私を誤解していたから出来た事なんでしょうが。いつもいつも、…とても無邪気過ぎる…可愛い人だ…」

「あ、…」

ひゃ…反対の頬に唇が微かに触れた。
無邪気というのは、多分、ストールを掛けたり、平気で抱き着いたりした事とかを言ってるんだ。泣いて、鼻水まで……恥ずかしい…。

「内緒で写真、頂いてます」

「…え?」

何の?

「携帯を忘れたから。あの時、返す前に…富士山での写真を私の携帯に送っておきました」

「え?」

「携帯を勝手に弄りました。受け取った写真、加工して、詩織さんの部分だけ切り取りました。私の携帯に詩織さんは保存されてます。私にとっては富士山より詩織さんですから。
長い距離です。もどかしいほど時間がかかる。度々この部屋に訪れている情熱も、何故来ているのか、よく考えて頂いて、褒めて貰いたいな…」

…確かに、とても遠いところを何度も来ている。
それは、だから、そういう気持ちからだって事…になる。

「…声にならない?仕事なんかではありませんよ?
ご褒美は…詩織さんからして貰える?それとも…私から貰いにいってもいいのかな…」

え?あ、もうこれは…これ以上となると…覚悟せねば、…奪われてしまう。

「言っても仕方のない事ですが、真は私の目の前で詩織さんにキスをした…。多分、当たり前なのでしょうが、知らないところでも…しているでしょ…」

あっ、顔が近くなって…、ん?…止まった。寸止めだ。
余裕で微笑んでいるようにさえ見えた。
…だから、余裕のある大人の男の人は…これだから…困る。されても何も言えない状況だ。…私は顔を背けてもいない。…触れてもいいと思ってる?…。
このまま見つめ合うのもきつい。だけど目を閉じるのはまずい。

「…いいですか…唇が触れてしまったら、止められなくなりますよ…」

息がかかる…知らない…んー、もうこんな甘い顔で見つめられるのももう限界。ギュッと瞼を閉じた。
…?

暫く間があって、フッ、と息を吐く音がしたと思った。
…あ。おでこに唇が触れた。そして左頬。あ。…右頬に。…あ。ゆっくり瞼を開けてみた。顔が交差した。抱きしめられた。っん…はぁ…。
各務さん?

「はぁ…。あー…。残念ですがここまでで止めておきます。今はまだ、何も出来ない…卑怯な気がするから」

…はぁ。これはこれで…ずるいです。
こうして私に人の温もりを思い出させて…。
私が貴方に火を着けたと言いましたが、一人で居る事の寂しさを植え付けたのは貴方です…。

「何もしなくても…ずるくないですか?…。私を一人で居られなくするつもりですか?」

「ん?」

また正面から顔を見られていた。

「あ。…温かいんです。各務さんは、いつも温かいんです…心配りとか、それを…これでもかってくらい私に教えておいて。それなのに、こんな…こんなのずるい。
各務さんはずるい」

腕を回して抱きしめた。

「…お」

「もう少し寝ます!」

今ならまだ、今までの各務さんで居てくれるはず。試す訳ではない。何も出来ないって言った…。
私も今ならまだ…今までの私だ。

「フ、…解りました、寝ましょうね。…はぁ、大きな赤ちゃんだ、…世話がやける。詩織さんだってずる賢い、…赤ちゃんだな…。
詩織さん…、貴女はとても…チャーミングだ…」

各務さんは私をギュッと強く胸に抱きながら髪を撫でた。
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