不審メールが繋げた想い

ブー、ブー、ブー、…。

…ん、ん…ん?

「…各務さん…、携帯が…鳴ってます。…各務さんのです」

「ん?ん、大丈夫」

ブー、ブー、ブー…。まただ。

「…各務さん?出た方が…」

「きっと真です。だから放っておいても大丈夫ですよ」

あ、でも…。真さんだと限った訳じゃないかも。仕事関係の急ぎかもしれないし。

「一応、見てください。何かあった場合大変ですから」

「…解りました」

回されていた腕を伸ばして携帯を取った。

【各務、どこに居る】

【急に休むなんて連絡したらしいけど、まさか、詩織のところじゃないだろうな】

…フッ。まあ、簡単に察しはつくよな。

「何でもありませんでした。さあ、寝ちゃいましょう」

携帯を戻すと抱き直された。

「え、あっ…」

ブー、ブー、ブー…。

「…各務さん…また」

「ん゙ー…煩い男だなぁ」

再度、手を伸ばした。

【会社に休暇届を出してあっても俺は聞いてないぞ】

「大丈夫なんですか?急用では?…真さんですか?なんて?」

「…ん…私の休みは、会社は認めても、真は聞いてないって。単なる言いがかりです。
どうやら私が詩織さんのところに居ると思ったみたいですね。勘はいいらしい。
…やきもちですよ」

…。

「放っておいて問題ないです。私は今は休暇中ですから。
詩織さんを盗られたくないなら、来ればいいんです」

…それは有り得ないし、若い子のような行動は出来ないだろう…。真さんはそういう人だから。…解らないけど、だと、思う。庇う庇わないではなく、中立の意見として、今に限らず、立場上やはり来る事は難しいだろう。一般人のセキュリティーも何もないマンションに、いかにも芸能人の乗るような車で出入りなんてしていたら、地方といえども怪しまれるだろうから。
…それでも、クリスマスの日…、一度はうちに来ようとしてくれたんだった…。

携帯を戻した腕に、ギューッと抱きしめられた。
あ、各務さん?…。

「私も今、やきもちを妬いていますよ。真の事を考えていますね?
詩織さん…、好きですよ。私は結婚したいと言いました。すぐにでも一緒に暮らせます。…暮らしたい。こうして一緒に居たいんです。そう出来ることが私にとってなによりの幸せ、最大のご褒美です。
私の誤解は解けています。お望みでしたら私の男の部分、確かめてみます?」

え、うっ…男のぶ、部分…。とうとう実力行使に打って出るのですか?

「ん?あ、ハハ、もろ、下ネタではありませんよ?男の、心の部分です。
随分といい大人なんです。何から始めようなんて難しく考えなくてもいいんですよ。何をしてくれても、してくれなくてもいい。
綺麗事でもなんでもなく、居てくれるだけでいいんです。私に取って貴女はそんな存在なんですよ。私は貴女と一緒に居たいんです。
考えたいというなら、納得がいくまで考えてください。…待ちます。ずっと待ちます。当然です。今までの貴女には真のことしかなかった…そこに入り込んだのですから。途中、何かあっても…待ちます。最終的には私の元に来てくれるのを待ってます。必ずそうなりますよ?
好きという感情は、私のように、考えるモノではないと思います。ごく自然に、一緒に居たいと思う事がそうなんだと思います。
今は…これは私の、自分に都合のいい独りよがりかも知れません…。言葉ではどう伝えたらいいのか難しいのですが、何か…確かなモノ、繋がりを感じるんです、詩織さんとは。
一緒に居る事がとても自然に思えるんです。…違いますか?
貴女はとてもチャーミングで安らぎます。こうして一緒に寝ていますが貴女は何も拒否しない。勿論、複雑に動揺はしているとは思いますが。不思議と私と一緒に居てられるでしょ?それが貴女の自然の、素直な気持ちの現れだと、私は思っています。…勘違いかな?
すみません。寝ようと言ったのに話し続けて。
でも、こうして会っていると、伝えたい事が有り過ぎるんです。
いきなり…凄い必死でしょ?これが私の男心なんです。…誰にも渡したくない。それは真であってもです。協力していたはずが…貴女に会い、接している内に……魅力に惹かれてしまった。完全な横恋慕です。とにかく、自分の気持ちに気づいたら、伝えずにはいられなくなったんです。肝心なことは言わなくては伝わらないでしょうから。真を支えるための、一、マネージャーだと、それだけの存在だと思われたくなかった。
…もう少し時間が経って落ち着いたら、真のお母さんのお墓参りに行きましょうか。きっとお母さんは貴女に感謝していると思います。親だから、真のしようとしていた事は薄々気がついていたと思います。貴女は随分葛藤があったでしょうが、真のお母さんは決して騙されたなんて思い方はしていなかったと思います。だって本質は…真は貴女と本気で結婚しようとしての事でしたから。嘘で騙していた訳ではありませんよ」

各務さん…。貴方は…卑怯にはなりたくないと言った。随分真さんの肩を持つのですね…フォローばかりして。

「お墓参り、連れて行ってくれますか?」

手を合わせて、お母さんにちゃんと謝りたい。私は私の中で騙していたと思っていたから。謝らないといけない。
それから、真さんと話がしたい…。
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