不審メールが繋げた想い

はぁ…眠い。眠れなかった。何度も目が覚めた。金曜の夜程ではないけど…引きずったままの興奮が少し、と……不確かな不安。
起きて直ぐテレビを点けた。これはいつもの事だ。週明け。早朝のワイドショーだ。芸能ネタは盛りだくさんのようだった。

朝はちょっと寒くなって来た。少量のお湯を沸かし、手早く珈琲を入れた。
椅子に掛けてあったカーディガンを取り、片腕ずつ交互に袖を通しながら珈琲カップに口を付けた。
床を歩いた足先が寒い。ソファーに膝を抱え座った。いつもこうして少し時間を取ってから身支度を始める。

…はぁ。丁度芸能コーナーが始まっていた。あ゙っ…嘘…。しかも先週のYさんの試写会の様子が流れていた。…地方なのに…テレビカメラとかも取材に来てたんだ。……はぁ…本当良かった、撮影に参加しなくて…。元々そんなもの、参加したりしないけど。完全にテレビにも映ってしまうところだった。…危なかった。

……危ないと言えば…、金曜はメールがかなり来たな~。結局そのまま放置しているけど…。恐いと思う反面、いまだにどこかでブロックしてはいけない気がしたから。正直、ここまで受けるだけでも受けていたら完全に様子が気になってきたというのもあった。また何かしら来るのかも知れないけど。それをどこかで待ってるような自分も居るような気がした。開けなければいい。何故、ブロックしないのか…。送られてくる内容が気になるからだ…。それはちょっと怖さより違う感覚があった。


「おはよう」

「おはようございます…先輩~、眠いです…」

「ん~?」

私もよ。睡眠不足の原因は違うけど、ネット検索でもし過ぎたのかしら?いつものことよね。

「あー、ネットニュース、見ましたよ~。サプライズ、あったみたいじゃないですか。どうでした?生Yさんは。行ったんですよね?」

本当に興味があるのかどうなのか解らないけど…。聞いてくれるって事は気を遣ってくれてるのは確かね。

「あ、そうだったのよね。言った通りでビックリしちゃった。まさか本当にユミちゃんが言ったみたいなサプライズがあったなんてね…二重にびっくりよ?
実年齢は実年齢としても、永遠の王子様って感じだった…全然若いんだよ?…嫌になるくらい素敵だったし…やっぱり違うね。あ、声もね。生声も素敵だった…本当いい声で…」

…はぁ。それはいいんだけどね…。

「先輩?な〜んか、元気無さげじゃないです?本人に会った割には今一、テンション低めじゃないですか?」

「あ…う、ん。はぁ、それがね〜、来ちゃって、メールが、一杯」

「え?例の?迷惑メールの設定、してないんですか?」

「うん、なんとなく…そのまま…」

来て当たり前、その上でしんどそうに言ってるなんて、アホだと思われてるかな。

「そりゃあ来ますよ」

「うん、来ちゃうね」

…。呆れてるな。

「やるべき事をしていない、先輩の自業自得です」

「…うん、そうよね」

そうなんだけどね、…ちょっとね。進展していく話が気になるからって言ったら、どっちかといえば品がないって思われるわね。

「まあ、大量に来ようが、まずいメールなら開けなければいいんですから。放っておけば被害は無いです。削除しなくてもいいですけどね。ブロックしないつもりならひたすら放置ですよ」

「…うん、そうね」

削除はしてない。全部残してる。

「あ、何か、他にもまだあるんですか?」

「え?あ、うん、メールの人、妙に私の事を知ってるのよね…」

「へっ、ヤバくないですか、それ。キモい系ですか?でもきっとありそうなことを上手く言い当てられてるだけですよ。どこそこで何々を買ってたね〜?とか、今日の洋服凄く似合ってるよ〜とか、髪切った?とか、行動を見られているみたいな感じです?
まさか…部屋に入った途端、着信があるとかですか?おかえり、仕事お疲れ様って。そんな感じのだったら、まさにストーカーってパターンもありますよ?それだと危険かもですよ。どんなのが来たんです?」

…。ハハ…。服似合ってるっていうのは来たけどね…。でもね……。

「先輩。削除しました?残してるなら見せて貰っていいですか?」

「あ、うん、いいよ。…はい。…これ、このアドレスのよ」

携帯を渡すとユミちゃんは暫く黙って見続けていた。

「…どう思う?」

「開けてないから中身はどうなのか解らないですけど、んー、何だかこれって…、間違いメールではなさそうな気がします。見ても平気そう。開けてないから開けませんけどね。でも変なメールにもあるパターンでもあるような。でも、アドレスは変えてない。ん゛ー。難しいですね。どうしてだか理由は解りませんが、先輩に送って来ている事に間違いはない気がします。だってアドレスにですから。……ぁ…。もう言っちゃえ。
先輩が返さなければ、間違ったのかとアドレスの確認をして送り直すはずですからね。アドレス、確実に知ってるってことです。何故心当たりのない人が知ってるかってそこが気持ちが悪いんですけどね。ランダムの番号に来るものとは違います。これは先輩宛になんです。向こうだってアドレスも変わらない…、ずっとこんなに来てるんだから…余程なんですよ。先輩だと確信して送って来てるんですよ。見てほしくてです、多分。件名も、はちゃめちゃな感じじゃないし。順序だってるから思いつきみたいな感じもしないし。…でも、これは迷惑メールにあるパターンでもあるんですよねぇ。…先輩、本当に心当たりありませんか?よ〜く考えて見ました?誰かが教えたのかもしれませんよ?何か、凄く近い人のような気もしますけど。リスクがない訳ではないけど、試しにこのアドレス宛に何か送ってみます?開けて見るのも、それだけなら平気ですよ?もしも何か不審なものがあっても何もいじらなければ」

えー…それは、勇気がちょっと…いるかな…。今更だけど内容がどんなものか、そっちを知るのが…。不純な…自分の気持ちと矛盾してるみたいだけど…更に気持ち悪くならないかな。

「…大丈夫だと思う?」

「はいって、言い切れませんけど。やっぱり気になるでしょ?結果、アドレスを変えてまで送って来るようなしつこい相手なら、面倒でも今度こそブロックし続けるとかしたらいいですから。…面倒ですけど」

「そうか…そうね。そうよね…」

そうなったらまた無視すればいい。か。それでこのアドレスからの物は何かしら結果が出る…。

「はい。甘いかも知れませんが、上手く話せば、メールは来なくなるかも知れないし。…内容が分かんないし…。勿論、その反対もありますけどね…無理にとは言いませんよ?このまま放置って事でも」

…ん゙ー。……どうしようかな…。敢えてリスクを選ぶ必要はないものね…。

「どうしても気になるっていうなら、ですよ。本当に用がある人かもしれないし」

んー。

「ピタッと止まるかもしれないし」

「え?」

「一定期間過ぎたら諦めるかも」

あー。う、ん。

「それだと、モヤモヤしたモノはちょっと残るかも、ですね。私なら平気ですけど」

「…そうね…」
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