ハッピーネガティブシンキング

テレビを点けて食卓に着く。

「最近営業入ってるから、全然早く帰れん」
「郷《きょう》ちゃんもかー。わたしも最近忙しい。毎日依頼100件とか残して帰る」

「それ全部、灯梨《あかり》がすんの?」
「まさか。全員でさばくけど、簡単なのばっかしてる奴とかいるし」

仕事の愚痴を呟き合う。
テレビからは、お笑い芸人の笑い声が響いて来る。

「自分ばっか力掛かる依頼やってる気する。ほんと腹立つ。……郷ちゃんは、腹なんか立てないか」

この旦那は出会ってこの方、怒っているところを見たことがない。
啜っていたスープカップから彼へ視線を滑らせると、手元に目線を落としたまま言う。

「……諦めてるから。心をゼロにしておくと、何か起こって1になった時に喜びを得られる。常にゼロにしておけば、それ以下には下がらない」

わたしに視線を移し、大きな目を細め静かに微笑んだ。

「……無の境地だね。わたしも見習うわ」

白米を頬張りながら、頷いた。

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