ハッピーネガティブシンキング

電話が鳴っている。5コール目。
わたしは電話を置くなり、次の電話を取る。

『すみません、昨日の朝出した依頼、まだ取り出しすらして貰って無いみたいなんですけども!』
「恐れ入ります。管理番号を頂けますか?」

受話器から響く苦情を、便利な言葉“恐れ入ります”で切り抜ける。
背後からまた電話のコール音。
いい加減出てくれないかなぁ、特に男性陣!

問い合わせのあった依頼を横入りさせて処理をする。
PCの画面を切迫感と共に睨んでいる内も、刻一刻と過ぎ去って行く時間。
古い依頼がどんどんと積もり積もって行く。

「藤倉《ふじくら》さーん、2番~!」
「……ありがとうございまーす……」

やっと電話が途切れたかと思えば、今度はご指名。
取り次ぎのお礼を告げ、また左手に受話器を持つ。
対応に追われてばかりで、処理が進んでいる気がしない。


電話を終えると隣の席の、契約社員の同期であり、リーダーでもある10歳上のお姉さん、水川《みずかわ》さんに捕まる。

「使送便の入力と管理を派遣さんに任せる話だけどさ、藤倉さんの入力した分テンプレートとして出してくれないかな。一番細かいし」
「……用意しときます」

彼女に頼られるのは悪い気はしない。
正直疲れていたが、笑顔を作った。

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