ハッピーエンドじゃ終われない
「…君は、伊藤みちるの友人か?」

革靴の人が、私にそう問いかける。
男の声だった。
おそるおそる顔をあげると、白髪混じりの髪をした中年のスーツを着た男性が私のほうを見ている。

「あな…たは?」

「俺は彼女の捜査を担当した、刑事の桜井(さくらい)という者だ」

「刑…事さん?」

「信じられないなら、警察手帳を見せるが」

桜井と名乗る刑事はポケットから警察手帳を取りだし、私の目の前につきつける。
そこには”桜井俊二(さくらいしゅんじ)”と名前がかかれ、写真は今より少し若いときのものみたいだったが、目の前の男性と同一人物だった。

「本当に刑事さんなんですね」

私はさっきまでの緊張感が解け、そっと胸を撫で下ろす。

「ああ。ところでさっきの質問に答えてくれるかな」

「さっきの…?」

「君は伊藤みちるの友人か?」

桜井刑事は再び私に尋ねる。

「あ、はい…中学時代の友人で…」

「そうか」

そう言って桜井刑事は黙りこむ。
そういえば何でここに刑事さんが?
もう捜査は終わったって聞いたのに。

「刑事さんは、何故ここに?」

「ああ…現場検証は終わったんだが、ちょっと引っ掛かってな」

桜井刑事は花束の前でしゃがみこみ、目をつぶり手を合わせる。

”引っ掛かる”
この人は、みちるが自殺じゃないって気づいている。
この人なら、弥生を見つけて止めてくれるかもしれない。
連続する死に終止符を打てるかもしれない。
なら…
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